第8話 入学直前
あれから半年の月日が経過した。俺は彼女の護衛として恥じることのないようにとルーナ先輩からの教育を受け続けていた。
そうして、ついに迎えた入試当日。筆記試験と魔法試験の両方を受けて無事に終了。
それから一週間が経過した──。
「サクヤ。封書が届いていたわよ」
正午過ぎ。この屋敷に届いた封書は間違いなく合否だろう。
「えっと……もしかして、合否ですか?」
「そうね。開けてみたら?」
「まだ開けていないのですか」
「こういうのは本人がいいと思って」
と、リビングでそのようなやりとりをしていると嬉しそうな声を上げてアイリス王女が走ってくる。
「見てっ! 私は合格しましたっ! えっへん。すごいでしょ?」
ニコニコと笑いながら手紙を前に差し出すと、その横からぴょこっと顔を出す。
その仕草は大変に可愛らしいのだが、少しだけタイミングが悪かった。
「あ……サクヤは今から見るのね。ごめんなさい。なんだか私もドキドキしてきちゃった」
ルーナ先輩とアイリス王女が覗き込む中、意を決してその封書を開けた。
「──合格、みたいですね」
中にある紙を見るとそこには合格という文字が刻まれていた。
「やったーっ! おめでとうサクヤ! これで同じ学生として、学院に通えるわねっ! 護衛としてもそうだけど、学生として一緒に通えることができて嬉しいわっ!」
その場でぴょんぴょんと飛び跳ねて、俺の両手をとって喜びを示す。実際のところ合格しなくとも護衛として学院には行けるのだが、やはり同じ学生としての方が距離感は近くなる。
護衛という観点ではその方が絶対に良いと言われていたが、無事に合格できてよかった。
そのようなことも考慮して、アイリス王女はとても嬉しそうに笑うのだった。
「う……ぐすっ……」
一方のルーナ先輩といえば、なぜか静かに涙を流していた。
「ルーナ先輩? 泣いているのですか?」
「ね、別に感極まっているとかじゃないわよっ! ただまぁ……私はサクヤの努力を知っているから、ちょっと嬉しかっただけよ!」
確かに今まで本当にお世話になった。えげつない課題をやるのは大変だったが、やはり彼女の教えがなければ合格を勝ち取ることはできなかっただろう。
ルーナ先輩は感謝しかない。
「ふん。まぁ、これからは後輩になるわけね。学院でも色々と教えてあげるから、覚悟しなさいよサクヤ」
「ははは……お手柔らかにお願いしますね、ルーナ先輩。それと改めて、今までありがとうございました」
「う……その。どういたしまして」
プイっと横に向ける顔は少しだけ赤くなっていた。
月日は巡り冬は明け、ついに春がやってきた。
そして、入学式当日を迎えることになるのだった。
†
「うん。よく似合ってるんじゃない?」
「ありがとうございます」
入学式当日、早朝。
俺は下ろし立ての新しい制服に身を包んでいた。白を基調とし、
腰には
「それにしてもサクヤは結局、
「そうですね。三種類の中で、一番マシかと」
俺の魔法の技量はそれほど向上することはなかった。魔力の総量は多いが、魔法はそれほど上手くは使えない。今回の入試合格者の中でも下から数えた方が早いだろう。
俺が合格した要因としては、筆記試験でなんとかカバーすることができたからだ。
「わぁ! サクヤってば、かっこいいわね!」
リビングにやってくるのはアイリス王女だったが彼女もまた下ろし立ての制服に身を包んでいた。女子の制服も男子とほぼ同じデザインだ。
俺にしてみれば、スカートは少々短めに思えるが。
それにしても、アイリス王女の綺麗なブロンズの髪色と相まって本当によく似合っていると思った。
「アイリス様。とても綺麗ですね。よくお似合いです」
俺は思ったことを口にする。すると彼女は忙しなく髪を弄り始め、上目使いでチラッと俺の顔を見てくる。
「そ、そう?」
「はい。美しい金色の髪と制服が合わさって、とても綺麗です」
「ふふっ。ありがと」
そんな俺たちのやりとりを、ルーナ先輩はじっと見つめていた。
「ふーん。ま、いいけどね。私は何度か制服姿を見せているのに、そこまで褒められたことはないけどねぇ……」
「いや、ルーナ先輩もお綺麗ですよ! そのしなやかに伸びる脚が美しいです」
「う……まぁ、別にいいけどね。無理に褒めなくてもっ! ふんっ!」
プイっといつものように顔を背けるが、微かに頬が赤くなっているのを見逃さなかった。思ったがどうやらルーナ先輩は褒められることに慣れていないようだ。
「さて、本日より入学ですか」
最後にやってきたのはバルツさんだった。彼はいつものようにパリッとした燕尾服に身を包み、髪をオールバックにまとめている。
「サクヤ殿。くれぐれも、アイリス様のことをよろしく頼みます」
「はい。もちろんです」
王族が公の場で狙われるなどということは、このフレイディル王国では今まで起きたことはないらしい。それでも王族に護衛をつけるというのは最悪の事態を考えてのことだ。
学院で学ぶことができるのは正直言って嬉しいと思う部分もあるが、護衛という仕事も忘れないようにしなければならない。
「行ってきますねっ!」
「行ってきます」
アイリス王女は元気に声を上げ、俺もそれに続く。
「私も入学式には出るから、ちゃんと見てるわね。サクヤ、くれぐれもアイリス様のことをよろしくね」
「分かりました」
そうして俺たちはついに、王立フレイディル魔法学院に向かうのだった。
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