生後121日目⑤
「ふふーん、どう? うまくいったでしょ?」
満面のイキリ顔をした恵が仁王立ちで腰に手を当てる。
『世界一プリティーな恵ちゃん偽の人質になってツェプェリンくん助け出しちゃおう大作戦』結果は大成功だった。
恵が街でみかけたタマキンブラザーズに喧嘩を売れば、恵はすんなりと拉致られ、すんなりとタマキンブラザーズのアジトに連れて行かれた。
そしてそのアジトにはやはり予想通り拉致られた子供たちがたくさんいた。そしてこれまた予想通り、そこには攫われたギュスターブの舎弟であるツェプェリンが囚われていた。
そしてタマキンブラザーズは恵をアジトに放り込むと、どこかに行ってしまったので、その隙に魔法石で連絡を取り合ってた俺達とアジトで合流したっえワケだ。
ちなみにツェプェリン以外の子供たちはもう逃し済みだ。
「やってみるもんだな」
全く、こうも恵の思い通りになるとは、いくら子供の考えることとは言え、こう安直ではタマキンブラザーズは多分、ワルの素質ゼロだな。
「ばかやろぉがぁ! つかまってんじゃねぇょぁ!」
「いてっ! ひでーよおやぶん!」
怒鳴りながら舎弟のツェプェリンにゲンコツをかますギュスターブの野郎も心なしか嬉しそうに見える。なんだかんだ心配していたのだろう。
「まるだし! ちんちんまるだしだぁ!」
そして殴られておかしくなったのか、拳を突き上げながら化石のような下ネタを叫ぶツェプェリン。
「……おいギュスターブよ、お前が殴るからツェプェリン壊れちまったじゃねぇか」
「だいじょうぶ、きょいつはいつもきょーだ!」
……いつもちんちん丸出しの話を? ……ふむ、まあそれはいい。ギュスターブの舎弟なんてやってるくらいだ。ある程度のクレイジー性を持ち合わせているのは想定内。しかし、それより気になることがある。
「おい、ツェプェリンとやらよ」
俺はツェプェリンに向き直り、優しく話しかける。
「なんだぁ? ちんちんのはなしか?」
「いや、……その、お前、どうしてギュスターブの舎弟なんかやってるんだ?」
そう、そこが一番気になったのだ。この猛り狂う5歳児。25歳の知能を持つ天才赤ん坊である俺だって恐ろしく思う。
そんなヤバい奴と四六時中一緒にいるような立場に自ら志願するとは思えない。もしかしてギュスターブの野郎、脅して無理矢理舎弟やらせてんじゃねぇだろうな? もしそうなら俺がお説きょ、
……もといレナにチクってやらねばならん。
「はぁ? おまえばかだろ! ちんちんまるだしにすっぞこらぁ! おやぶんせかいいちかっけーだろ!」
そういいながらツェプェリンがギュスターブ送る視線はキラキラとしていて、確かにリスペクトの念が見える。
「……ふむ」
……うーん、そうか、かっこいいのか。脅されてる風でもないし、この異様に輝いた視線は確かに、この生後2000日にも満たない暴君を心から尊敬してるのだろう。
「なるほどな」
「ふん、わかればいーんだ! おまえもちんちんがわかってきたよーだな!」
「ああ、そうだな」
ちんちんがわかってきたの意味がわからないが、問い返してもトンチンカンな返答しか返ってこないことは簡単に予測できるので、適当にうなづく。
「ねぇねぇ、くーくん?」
と、そこで横から恵みに肩をツンツンされる。
「なんだ恵よ?」
「もうツェプェリン君もら助けちゃったんだし、そろそ、ズラかった方が良くないかい?」
確かにそうだな。そもそもここにきた目的はツェプェリンの救出だ。それが叶った今、こんな薄暗い小屋にいる理由はない。
「おう、そうだな、……おい、ギュスターブ、帰るぞ」
「んぁ? なんだだぁ?」
ギュスターブはそこでなぜか不思議そうにする。
「いや、もうツェプェリンは助けたし、ここでやるこたぁねぇだろ? それにあんま長居してるとタマキン達が帰ってきちまうぞ」
「ぉあ? それをまってるんだろぉ?」
言いながら、ギュスターブはその恐ろしい顔を、さらに恐ろしく歪め笑う。
「くーくんくーくん、ボクたちだけ先に帰ろう」
俺をくいくいと引っ張る恵。
「……そうだな」
一人で高笑いを始めたギュスターブと、それを見てテンション高くちんちんを連呼するツェプェリンを横目に、俺と恵みはこっそりと小屋を後にした。
帰り道の途中、小屋の方から『ぎゃ〜! 耳がぁ〜! 口がぁ〜!』という子供甲高い声が微かに聞こえてきた。
「……さあ、帰ろう」
「そ、そうだね! きょ、今日はいいことしたよね!」
ふむ、恵もどうやら、このクレイジーな世界の住人に対するリアクションを心得てきたようだ。
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