生後121日目②
「おうギュターブ、テメェがやられるなんて珍しいじゃねぇか?」
「く、くるなぁキュナイ!」
クソガキ2人からタコ殴りにされるギュスターブに近づいていくと、奴は何やら焦ったように声を張り上げる。
なるほど、普段偉そうに暴君ムーブをかましてる相手に、情けないところを見られて恥ずかしいのだろう。
……ふっ、これはチャンスだ。ここはこの暴君野郎をカッコよく助けて、2度と頭が上がらないようにしてやろう。そうすりゃこれからしばらく、家の中が安全になるというものだ。
「な、なんだお前は!」
「あ、赤ちゃんが歩いているだと?」
ギュスターブの怒号を無視してズンズンと歩みを進めると、2人のよく似たクソガキッズは弱々しい声帯を震わせ、各々に甲高い怒鳴りをあげる。
「ふっ、幼児よ、恐れ慄くがいい」
……しかし不思議だ。この、嵐を呼ぶどころか嵐として民から召喚されてもおかしくない5歳児が、一体どうしてこんな細っこい子供たちに喧嘩で負けているのだろう。
まさかあいつ、典型的内弁慶なのか?
いやしかしあの異常な戦闘能力でそれは、……いやもしかしてそれは俺が0歳児だからそう感じるだけで……。
「な、なんだよお前ぇ、こっち来んなよ! やっちゃうぞ!」
「やっちゃえ! 兄ちゃんやっちゃえ! でも気をつけて、あいつあんなちっちゃいクセに歩けるなんておかしいよ! 多分こいつ目からビームとか出してくるから!」
「え? おまえ目からビーム出すような相手と兄を戦わせようとしている?」
弟? らしき小さい方のガキンチョの妄言に、大きい方のガキがギョッとして振り返る。
ふっ、意味のわからんこと言ってはしゃぎやがって、流石は幼児だ。
「ふっ、怪我したくなけりゃさっさと退くんだな? 俺はこの魂ににハリケーンを内包した、クソガキを連れて帰りたいただけ……ぶぉあっ!」
ビュン!
と風切り音と共に飛んできた物体を間一髪の所で避ける。
後ろを振り返ると木の幹に突き刺さってるのは既視感のある馬のオモチャ。
「キュナァアイ! きゅんなっつってんだろぅわぁ! きょろすぞぉあ!」
唾を飛ばしながら地鳴りのような叫びを上げるギュスターブ。
ふっ、意地張っちゃってまぁ。俺に情けないところを見られるのが余程嫌と見える。
「まぁまぁ、ギュスターブよ、別にいいじゃねぇか? 実質兄のような存在であるこの俺に、たまには甘えてみたら、よ?」
言いながらなおも歩みを進めると、クソガキッズの片割れ(大きい方)が地面を強く蹴った。
「ちぎゃう! いいからこっちくんなキュナァイ!」
ふむ、普段は恐ろしいギュスターブのはち切れんばかりの咆哮も、この状況なら可愛いもんだ。
「偉そうな事言ってんじゃねぇーよ!」
そして大きい方のウンコマンは飛び出した勢いを利用して、俺に向かって全力の飛び蹴り。
すっ。
「うわぁああっ」
ずちゃっ。
それを俺は難なく避け、奴は地面にすっ転ぶ。
ふむ。
……やっぱりおかしい。
先程の攻撃、ギュスターブの攻撃を凝縮されたハリケーンだとするとこのガキンチョの攻撃は例えるならそうだな、……裸子植物の受粉くらいのレベルだ。強さも鋭さもゼロだ。
「うわっ、兄ちゃんがミスった! 兄ちゃん、早く逃げるんだ! 目からビーム出される!」
……なんでさっきからこのクソガキ(小さい方)は俺のことを化け物扱いしてやがる。
俺ほどプリティでハンサムな0歳児はいないってのによぉ。
とまぁそれは置いといて、やはりおかしい。
こんな花粉みてーな蹴りしか出来ない相手に、ギュスターブがやられるワケがない。
「だ、だだだ出してみろ! 出せるもんならビーム出してみろ!」
ゆっくりと近づいてやると、大きい方のガキは強がって怒鳴っては来るが、元々か細い声はさらに震えてしまっている。
虚勢のみの兄と、ガヤだけの弟。
2人合わせたところでガタイ、戦闘力、度胸、どれをとってもギュスターブを相手にできるレベルではないはずだ。
さらに一歩近づいてき、重々しく言ってやる。
「ふん、ならば出してやろう。必殺、……“当たると5年間、鼻の穴からウンコが出続けるビーム!”をな」
「え? ご、5年も? ヤバっ」
「や、ヤバいよそれ、絶対臭いよ兄ちゃん!」
俺のナイスなハッタリに恐れ慄いたガキどもは口々に言うと立ち上がり、急いで俺から距離を取る。
「くっそぉ! 覚えてろ! キモい赤ちゃんめ!」
「やーい! キモいキモいー! 目からウンコビーム出せるとかキモいー!」
そして漫画のような捨て台詞を吐いた彼らは、ピューッと一気に走り去っていった。
……ふむ。
中々愉快な連中だったな。
さて、カッコよくワルモノ(幼児)を撃退したところで我が家の暴君を連れて帰って、今日のゲキ渋エピソードをレナに自慢……⁈
「…………ギギギ」
ーーなんて浮かれそうになったところ、不意に背後から絶対零度の空気を感じる。
振り返ると、そこには歯を食いしばってこちらを睨むギュスターブ。そのタフで暴力的なな口元は、惑星さえもを噛み砕いてしまいそうだ。
「な、ななな何だいギュスターブくん?」
「キュゥナァイィー! よけーなことぉお!」
「……余計なこと?」
ふむ、そんなに俺に助けられるのが嫌だったのか? まぁ確かに、あんなショボいガキンチョ2人を1人でやれなかったとあっちゃあ、我らが暴君ギュスターブ的にはかなり恥ずかしいことなのかも知れん。
「おれのしゃてーのツェプェリンがなぁ! ……あいつらにつかまってんだそぉ!」
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