生後120日目①
人は、1人で生まれて1人で死んでいく。これはどうやったって避けようのない事実だ。
だけどその1人の時間を、出来る事なら誰かと過ごした思い出の記憶に包まれていたいものだ。
だからきっと俺達は、必死でつるんで、必死ではしゃいで、必死で恋をするのだろう。
「……うーん、これ、……はいまいちかぁ」
武器屋の片隅、無駄にガタイがマックスな男が真剣な顔でうんうんと唸りながら商品を物色している。
朝の散歩中だった俺は思わず、足を止め見入ってしまう。
大男が武器を真剣に見ている、このファンタジーな世界なら別に普通のことだ。
けどよ、問題なのは男が手に取る武器は全て“ムチ”だということ、そして何よりこの男は俺のダチのダニーだという事だ。
「おっ? これは! これは、……流石に威力が強すぎるな、肉がさけちまう、うーん、もうちょい丁度いい感じの刺激があるのは……」
まあ、いくら奴にドM疑惑があるとはいえ最初から疑ってかかるのは失礼だ。
実はムチ使いで、モンスター討伐のクエストに挑むための装備を見ているという可能性だってある。
「おっ、これは?」
と言いながら自分の尻を軽く叩いたあと、腕を組んで黙り込んでしまったが、こいつが“自分を叩いてもらうための”ムチを探していると決めつけるにはまだ早い。
「……痛いってお言、いや違うな」
いくらドMといえどダニーは俺たちの中では珍しく常識人。
何やら腕を組んだまま一人でブツブツ言い始めたが、それが変態行為用のアイテムの使い道を妄想していると捉えるのは失礼な話だ。
ぺしんぺしん。
「アンタなんかこれで十分よ、喜びなさ、……うーん」
そして何より俺はダチ想いなのだ。いくらダニーが自分の尻をムチで叩いた後謎のセリフを呟いたからって決めつけはよくないのだ。
「ありがとう、これでアンタに触れずに痛みだけを与える事が出来るわ、能無しのアンタにしては最高のプレゼンブファッ! ……うん、これだな」
何度も言うようだが俺はダチ想いなのだ。どんなにそいつがクソに見えたって、世界中の奴らからクソだと言われたって、俺だけは信じてやる。それがダチってもん、……いや流石に無理あるだろこれ。
というかこいつ、店の中でハッスルしすぎだろうが。
よし、認めよう。
今、俺の目の前でお目のダチであるダニーが、“好きな女にプレゼント(とは名ばかりの自分の性的エゴを叶える為だけのアイテム)であるムチを物色している。
そしてどうやら、プレゼントにピッタリ(自分が叩かれるのにピッタリ)なムチを見つけたようだ。
まずい、ムチを手に取ったアホがこちらに歩いてくる。
俺は咄嗟にダガーの入った棚に身を隠す。
するとダニーはムチを持ったままルンルンとレジへたどり着き、満面の笑みで告げる。
「すいません、プレゼントなのでラッピングしてもらえますか? リボンは紫でお願いします」
「え? ムチをリボン付きで?」
うわぁ……、店員ヒぃてんじゃねぇか。
「あの、片想いしている女性へのプレゼントなので」
「え、……片想い中の女性にムチを?」
いやお前、こんなとこでハッスルしてんじゃねぇよ、店員ビックリして固まっちまったじゃねぇか。
「はい! なので可愛くラッピングお願いしますね!」
「あ、……ああわかったよ」
力強く言われてしまい、全てを諦めたようにムチにリボンを巻き始める店員を尻目に、俺は棚の影に隠れたまま、魔法石に向かってヒソヒソと囁く。
「おう、恵か? 今アシュリーの店から三ブロック離れた武器屋、ダニーが面白ドM活動を開始した、オーバー?」
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