生後119日目①
完璧な人間とは何だろう?
何事にも動じず、優しくて、面倒見がよくて、判断を誤ることがなくて、なんてな。
必要であろう要素を数えていけばキリがないが、そもそもおかしいたぁ思わねぇか?
何事にも動じない奴が一々他人の感情に寄り添って一緒に悲しんだりはしねぇだろうし、面倒見がいい奴は誰かを助けようとして判断を誤るようなことはむしろ多いだろう。
物事ってやつはいつだって矛盾しているし、きっと人はそれでいいのだろう。
だからこそ生きるってなぁあったかくて、優しいんだろうよ。
しかし……、
「ふぇえ〜、フェイフェイたん、すごく、その、おっぱっぴーだね、……ふへへ」
ものには限度というものがある。
翌日、稼いだ金を握りしめて俺とジョセフは晴れてオッパブに足を運び、力の限り豪遊した。
俺の目の前で空な瞳をしながら空中に思い描く、ありもしない乳房を揉みしだいているこの悲しい男の名はジョセフ。
遺憾ながら俺の大切なダチである。
アシュリーに振り向いてもらえる可能性がいよいよ0になりそうな不安に押し潰され、朝からまた酒を飲み酩酊するその姿はまるで、自尊心の崩壊を具現化したかのよう。
「ジョセフよぉ?」
「なんだい? マイフレンド」
俺がたまらず声をかけると、この悲しい存在は空な目で振り向き、平坦な声でひょうきんなセリフを吐き出す。
「……え、ーっとだな?」
渦巻く数多の感情が混ざり合う、この余りにも情報量の多い男に恐れ慄きながらもなんとか声を絞り出す。
「気は、晴れたか?」
……んなワケねーだろ! 見てわかんねーのか!
って思ったそこのお前、もちろん言っていることは正しい。
しかしもう一歩踏み込んで考えてみてくれ。
この完全に大丈夫じゃない男に、それ以外になんと声を掛ければいいのだ。
それに見ていろ、わかっていることをあえて質問することで見えてくるものもあるのだ。
「……うぇへへ、もちろんだぜぇ」
な? 超キモ……、いや、思ってるよりも大丈夫ではないことがわかったらだろうが。
「……はぁ、まあしゃあねーか」
俺は力なくため息をつくと、だらしなく一歩踏み出す。
壊れ果てたモヒカンに、無理矢理飲ませる水を手に入れるために。
もしも神がいるのならば、たった一つ願う事。
こいつのこの薄汚れた姿を、どうかアシュリーにだけは見られませんように。
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