生後118日目⑤
「ーーサンキューベイビー♪」
ちゃりんちゃりん!
「ヒューヒュー!」
「よくわかんないけどかっわいい〜♡」
「頑張れぇー!」
俺が十八番をいぶし銀な声で歌い上げると、歓声とともに小君の良い乾いた音。
足元に置いた麻の袋(銅貨3枚入り)に周りに集まった若い女達から次々と、色とりどりな硬貨が投げ込まれる。
「センキュー!」
「「「かわいい!」」」
ちりりりりん!
俺がにこやかに右手をあげると、周囲の歓声は更に高まり俺はまるでスーパースター。
麻の袋にインするコインには、ついに金色のものまで混ざり始め心の中の高笑いを止めるのが難しくなってくる。
「……ふっ、流石俺だな」
🍼
「いやぁ、クナイちゃんすげぇよ、自分の特徴を活かす天才じゃねーか!」
俺のいぶし銀な路上ライブで荒稼ぎ(日本円にして計37500円分)した後、ニヤケながら歩くジョセフの胸に抱かれ、ニヤけながら移動する。
ハイテンションに褒めてくるジョセフに、また少しニヤけ具合が強くなる。
「ふっ、……まぁ歌だけは昔から得意だったからな」
「いや、歌は別にちょい上手レベルたけど、赤ちゃんの路上ライブって発想がすげぇよ」
「……な、んだと?」
確かに、言われてみれば赤ん坊が路上で歌うというのはかなりのレアケース。
思い返してみると女達の黄色い歓声も『かわいい』ばかりで『かっこいい』や『歌上手すぎ』みたいなのが一つも無かった気がしてきた。
「ま、まさか、俺の歌ではなく、赤ん坊が歌うことのみに価値が?」
「いやねーから普通に、路上でそれで金貰ってる奴らもっとうめーから! クナイちゃんって時々バカだよな?」
「……な、なんだと?」
ジョ、ジョセフにバカって言われただと?
勉強出来ないくせにロクでもない事考える時だけ頭の回転無駄に早いと言われたこの俺が?
「お、お前お、俺ぁお前に言われるほどバカじゃねぇよ!」
テンパった俺は、思わず声を荒げてしまう。
「うぉっ、クナイちゃんそんな急に怒んなよ」
……おっと。
「すまん、取り乱した」
そうだ、それじゃまるでコイツがメチャメチャバカって言ってるようなもん、……いやそう思ってるから別にいいか。
「ま、金も手に入った事だしパーっとやろうじゃねぇか、テメェ、どこ行きた……」
「オッパブ行こうぜ!」
ちっと悪いこと言っちまったかな? なんて軽い罪悪感を誤魔化すように話題を変えた俺の思惑など吹き飛ばすかの如く食い気味で叫ぶ男に俺は思う。
ふむ、こういうのも才能なのかも知れないな、と。
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