最後118日目④
「クナイちゃんよぉ、べ〜つに大丈夫だって! それに、今はそんな気分じゃねぇし」
後頭部から、俺を抱き抱えて歩くバカなお人好しの頼りない声が聞こえて来る。
俺はこの、しょぼくれたモヒカンのダチだ。
だから悩んでいるこいつにしてやれることはない。
自分が情けなくて、欲しいものが手に入らない時。
そいつをなんとかしてくれるのは、いつだって自分だけだ。
「バカ野郎、テメェだからこそじゃねーか。んな時こそよ? ちっとでも早くよ? いろんなこと笑い飛ばせるようにならなきゃならねぇんじゃねーのか?」
人間はなんと無力なのだろう。
「ケドさぁ? 今はそれどころじゃ……」
そして身勝手に生きることしか知らない俺は、人間の中でも更に無力な部類。
そんな俺に出来ることといやぁ。
「だからこそじゃねーか、それより何か? テメェはそのしょぼくれた顔のまま、アシュリーのバカたれから見直されるような方法が考えつくとでも思ってんのか?」
「そりゃ、……無理だけどさぁ」
「なら、今は一旦忘れとけ? な?」
「ふっ、……そうだな」
ダチらしく、一緒に遊ぶことだけだ。
🍼
「……お前、マジで明日からどうするんだ?」
「いやぁ、面目ない」
そう言って頭を掻くジョセフから受け取った財布(紐で縛る麻の袋)を覗くとそこには兵隊さんの顔が彫られた銅貨が3枚。
「いや、……お前これこそそれどころじゃないというか」
ちなみにこの銅貨の価値は日本円で言うところの一枚150円くらい。つまりこいつの今の全財産は450円ってワケだ。
「……お前、一応働いてんだろ? どうしてそんな」
「……それは」
「それは?」
首だけで振り返り、ジョセフの顔面にずずいと迫ってやると奴は大袈裟にたじろぐ。
「……お、おぉ」
「お?」
「……お、……っパブでつい」
なるほど、いつものジョセフか。
「しかしオメー……」
このことをアシュリーにマジで言わなくてよかったな。
「……そんな目で見んなよぉ」
そんな修羅のシーン想像したくもねぇという俺の慈愛に満ちた眼差しにジョセフは口を尖らせる。
「……」
本当はここで一発ぶん殴ってやりたいが俺にもこういう思い当たる節はある。
20歳のころ、片想いしてるあいつが全く俺の気持ちに気付いてくれなくて、女のメル友作りまくって、最後は金騙し取られたっけか。
「……ごめんよぉ、ケド俺だって辛い時もあってさぁ」
「しゃーねーな、じゃ、まずは金作るぞ」
「え? クナイちゃんそんなん出来んの?」
……ふっ。
「赤ん坊歴3ヶ月3週間を舐めんじゃねぇ!」
もしも神がいるのならば、たった一つ伝えたい。
背が低くても、力がなくても、赤ん坊でも、出来ることは沢山ある。
そいつをガチンコでやってやりゃあ、意外とでっかいことも出来から、そいつをじっくり見てやがれ!
……で、出来ればその勇姿をそれとなくレナに伝えておいてくれたら嬉しい。
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