生後118日目②

 恋に友情、誰かと心を通わせるってのはいつだって最高だ。


 けどよ? だからこそ恐ろしくだってあるんだ。


 分かり合えないことが、傷つけ合うことがよ。


 それは腹が減るよりも、財布を落とすよりもよっぽど強い力で心を傷つけちまうんだ。


 そんなのが怖ぇから、人はつい怒ったり、暴れたり、理不尽な論理を展開してみたりしちまう。


 それは“守る”ことを通り越し、立派に火力を持った“バリア”なんだ。


 だからお前らには許してやって欲しい。

  

 強すぎる“バリア”を張っちまった不器用なお前の“ダチ”を。


 だからお前らには許してやって欲しい。


 辛ぇ時にそうやって誰かに迷惑かけちゃう、自分自身を。


 とりあえず俺は、そんなくだらねぇ“バリア”でホントは大好きな奴を傷つけちまってる俺の大好きな“ダチ”を慰めに行ってくる。


 ま、俺1人じゃどうしていいかわかんねぇから

よ? 



 そいつを考えるのをダチに手伝ってもらうためにまずは作戦会議だ!


🍼


「いや、悪ぃな? 昨日の今日でよ」


「……水臭いなぁ、ボクとくーくんの仲じゃないか、そーいうのは逆に失礼ってもんだよ?」


 恵はそう言いながら偉そうに人差し指で俺の額をグリグリしてくる。


 まるで『困った時はなんでも頼りな! 感謝も遠慮も必要なし!』とでも言われているかのような優しさ、そういやこいつは昔っからこういう奴だった。


 涙ぐみそうになるのをなんとか堪えながら話を進める。


「そうだな、で、昨日あれからジョセフに付き合って飲んだくれてたんだけど……」


 ジョセフは『もう嫌われたし傷つけた』って感じですっかり自暴自棄になってしまってること。


 それでもアシュリーを諦めきれてはいないことを伝え、


 恵からはアシュリーはまだ頭に血が上っていて、ジョセフのことをずっとボロカスに言っていたが、多分それはジョセフに悪いことをしたのかもという不安と、抑え切れない苛立ちが混ざりあってテンパってのことだろうということ。


 あと、アシュリーは現状ジョセフに恋愛感情は1ミリも抱いてはいないだろうということを訊いた。


「……なるほど、詰んでるな」


「……詰んでるねぇ」


 2人で同時にため息をつく。


 そして恵は顎に手を当て少し唸ってから言う。


「っていうかまずはさ? 落とし所というか、……どうなったら最善かのゴールを考える必要があると思うんだ?」


「……そりゃおめー、最善っつったらあいつらがうまくくっつく事だろ」


 そう言ってやると恵はまるで『はぁ〜、だからくーくんはぁ』とでも言いたげに両手を広げて呆れたのポーズ。


 ……腹立つなぁ。


「そりゃそれがそーなったら一番いいのはそーだけどさ? それを部外者のボク達が望むのは、……なんてんだろ? 傲慢っていうか、……支配的っていうかさ? なんか、わかるかい?」


 ……なるほど、そう捉えられちまったわけだ。長年の付き合いの恵に対してだってこうなのだ、言葉ってやつは難しい。


「悪ぃ悪ぃ、そういう意味じゃねぇんだよ。俺が言いてぇのはそれが理想的ゴールだけだって話でよ? 直近のどーこれに関わるかの指標はそっから逆算すんのがいいかと思ってだな」


 恵は再び『うーん』と唸ると、


「……それ、逆にややこしくない?」


 なんだと! 俺のパー壁でロジカルな逆算方がややこしいだと? 


 別にオメー、そりゃ最終的にそこを目指すわけではないと分かっていながらそこをさも目指すかのように指標を仮で置いて結論を出すためのヒントにするだけ…………、ふむ、たしかにややこしいな。


「……そうだな。なら無難にアレか? 喧嘩する前の状態に戻す……」


「バカーっ!」


 言い終わる前に肉球でデコを殴られる。


「だからそーいうのを軽々しく決めちゃうのが2人に失礼だって言ってるんじゃないか!」


「はぁ! んなこと言ってたら話進まねぇだろが!」


「進みますぅ〜! アシュちゃんとジョセフくんがどうしたいのかを真面目に考えたら少なくとも今よりはマシな答え出ます〜! くーくんがバカなだけです〜!」


「……んだとコラぁ!」


 俺は思わず恵に飛びかかる。


 もしも神がいるのなら、たった一つ願う事。


 少し、もう少しだけでいい。


 俺がバカなのを治してくれ。

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