生後111日目⑥

「この……、クサレオッパブがぁ!」


「はぁ? 職業差別とか最低なんですけど? キモっ」


「……このクソアマが」


 アシュリーと恵が帰ってきてから約30分が経ち、俺とアシュリーはバチバチに喧嘩していた。


 俺とアシュリーを交互にオロオロと見る事しか出来なくなってるジョセフには悪いことをしているが、腹が立つのを止められない。


 大体前から思っていた。


 この女はいくら顔もスタイルも良くて空気までバツグンに読めるからといって調子に乗り過ぎなのだ。


「大体なんでクナイちゃんがキレてんの? カンケーなくない? あ、あれなの? なんか、友情ごっこ? みたいなのして自分に酔っちゃってる系? ……イタぁ」


 アシュリーが異様に腹の立つ形状に顔をしかめながら言う。

 

 ……殺してやりたい。


「中坊のいじめっ子かテメェは……、お前こそ勝手にイタい推理ごっこしてんじゃねえよ! 大外れだってんだ!」


「じゃあなんでそんなムキんなってんの? 図星? 図星なんでしょ?」


「このクソアマがぁ……」


「……さっきからそればっかじゃん、……キモいし」


 そして俺達は黙って睨み合う。


 クソっ、腹が立つ。


 どうして俺がこんな女に口喧嘩で押されなきゃならねぇんだ。


 絶対泣かせてや……。


「ちょちょちょ! 待って待って!」


 突然、恵が俺達の間に割って入る。


「……メグちゃん」


 するとアシュリーは一瞬、躊躇ったように恵に目を向けて小さく呟く。


「え、……えーっと」


 それを受けて恵は困ったような声を返す。


 見ていられなくて飛び出してはみたものの、別にそこからどうするかなど考えてはいなかったのだろう。

 

 こいつはいつだってそう、喧嘩が嫌いで、楽しい空気が大好きで、いつも無理矢理笑って、一度誰かが揉めれば苦手なくせにいつも仲裁に入ってたっけ。


「恵……」


「くーくん……」


 俺の呼びかけに恵は振り返ると、悲しげな視線を向けてくる。


「……すまねぇな」


「全く、……ホントばかなんだから!」


 言いながら恵は俺の頭を優しくガリっと殴る。


 ……ガリっと?


「いだだだだだ!」


 髪の生えそろっていない頭頂部を猫の爪で引っ掻かれたことを理解した瞬間、俺は鋭利な痛みにのたうち回る。


「……あ」


 激しい痛みの中、恵に恨めしげな視線を向けると、奴は呆気に取られ、その様子はさながら『あ、自分が猫なこと忘れてたや』とでも言いたげである。


 そう、昔からそうだった。


 こいつは昔から、俺に負けず劣らずバカだったのだ。


  そして恵はキョドりながらアシュリーに向き直ると、ひきつった声で言う。


「ぼ、ボクがく、……くーくんからケジメとっといた? ……からこ、これでぇ〜、か、……勘弁してやってくれない??」


 …………お前はヤクザの兄貴分か。

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