生後95日目

 俺が死ぬちょっと前、俺のいた世界じゃ『友達がいないこと』を嘆くのが流行っていた。


 リア充は爆発しろ!


 なんてな。


 まぁこれは基本恋人とイチャこいてるやつを妬む時に使うやつだが、友達が多い奴に対する妬みも似たようなもん。


 とにかく友達がいないことを嘆き、俺はコミュ障だ〜、なんて自分を卑下するノリが流行っていた。


 けれど俺は思う。


 誰だって友達を簡単になんて作れやしないのだ。


 コミュニケーションが上手いやつなら友達っぽい奴はたくさんできる。


 俺だって、そういうやつを羨ましいと思ったこともある。


 けどよ、自分が心の底から安心して、バカになってクソみてぇにややこしいことだらけの人生をよ、ぶっ飛ばして一緒に生きてけるダチなんてもんは人生において、1人2人見つけられたらいいほうだ。


 何なら気に入らないやつも周りにたくさん寄ってきて、それに時間取られて不利まであるだろう。


 だから友達が出来なくて悩んでるやつに俺は言いたい。


 ダチはテクで作んじゃねぇ、ハートで作るんだ!


 ってよ。


 ダチが欲しけりゃ、テメェの心に正直に、納得行かねぇことには全力でツッパって、批判されても負けねぇように、テメェの信じた『かっこいい』とか『素敵』ってやつを全力で追いかけてみて欲しい。


 そんな風にワガママ全開イケイケで生きてるお前をさ? 好きんなってくれる奴はきっと、……最高のダチんなるからよ。


 さて、俺の最高のダチが最高にキモい叫び声をあげているようだ。



「ひゃっほーい! ダニー! 愛してんぜぇぇ〜ダニー! ダーニー!」


「やめろ! マジでやめろ! 殺すぞ!」


 率直に言おう。


 今、ジョセフがダニーに抱きつき無理やりキスしようとしている。


 正直見ていて地獄以外の何物でもない。どうしてこう、女同士のいちゃつきは割とかわいらしいのに、男のそれって見ててもテンション下がるだけなんだろうな。


「やめろってんだ! くらぁ!」


 ダニーはジョセフの顔面に本気のエルボーを入れる。


「ぐはっ! ……ったた、……痛いじゃないかダニ〜、……うふふ、……ふふふ」


「……うわぁ」


 鼻血を流しながらも不気味に笑い続けるジョセフにダニーは恐れおののく。


 どうしてこんな地獄みてーなことになっているのかというと……、


「ふふ、ふふっ、……アシュリーちゃんに、面白いって言われちゃったよぉ」


 先日、レナの計らいで俺、レナ、ジョセフ、アシュリーによる飲み会が開催され、以外にもジョセフはアシュリーから好評を得ていた。あくまで以外にもというレベルではあるが、店に行かなければ会えなかった状態と比べれば大きな進歩といえよう。


「……キモいなぁ、っていうかお前その話何回するつもりなんだよ?」


「え? 2万回くらい? ……うふふ」


「マジでキモいな……」


「うぃっ、……グビッ、ふぅ〜」


 機嫌よく酒を飲むジョセフ。なんか最近こいついつも飲んでんな。


「どーでもいいけどジョセフよぉ?」


「ん~? クナイちゃ~ん、どしたんだい?」


 キモい視線を向けてくるジョセフに俺はふと思い出した疑問をぶつける。


「そういやこないだレナよぉ、かなり怒ってただろ、あのアシュリーのおっぱいのやつ。アレはもう大丈夫なのか?」


 先日、自分の服を下らないことに使って破かれた上に軽く胸をディスられたレナは、ジョセフに対して静かながらも相当な怒りを胸に秘めているはずだ。


 いつも醤油零したくらいのことでシバかれているジョセフがあれをおとがめなしで許してもらえるとは思えない。


「あ~、あれかぁ、そーいやあれから俺、姉ちゃんとは会ってないんだよね~? なんか仕事忙しいらしくてさ? 俺が寝た後に帰ってきて俺が起きる前に家出ちまってるみてーなんだよ、もうさすがに怒り冷めたんじゃね?」


 ふむ、そういや俺もしばらくレナの姿は見ていない。仕事が忙しいのは本当だろう。先日の件に関しては俺がバラしちまったもんだから、ある程度フォローくらいはしてやろうと思っていたのだが。


「まぁアレだ。姉ちゃんいっつも俺にキレすぎなんだよな? 俺は奴隷じゃねーってんだよ! 今回はある意味いい機会だよ、『いっつも俺をぶん殴ってんくせにいちいちんなことでゴチャゴチャ言われる筋合いはねーんだよ!』ってな具合にビシッと言ってやんよぉ、びしーっとよぉ~」


「そ、……そうか、まあ頑張れ」


 翌日、ジョセフは仕事を休んだ。

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