生後90日目②

「えーっ? 本当にいいの? ……なんだか緊張しちゃうなぁ」


「え〜? 顔真っ赤〜、カワイイ〜」


「もぅ〜、そんなの言われたら余計恥ずかしいじゃん! こーなったら、……えいえい!」


「あっ……、いゃん、ちょっと、男の子より上手」


 見たままを話そう。俺の目の前では、俺の愛する女が、俺のダチの愛する女の乳を楽しそうに揉んでいる。


 生前、巷では百合というものが流行っていた。


 それはどうやら女同士の恋愛を描いた漫画や小説らしい。


 ……なるほど。


 確かに目の前に繰り広げられた光景を見ると、そういったものが流行る理由もなんとなくわかってしまう。


 世界一いい女が、いい女と楽しくいちゃついている。


 好きな女の素敵で妖艶な姿を、嫉妬なく見ることができる。


 ふむ、悪くない。


 しかし。


「ねぇ、こんな感じはどう?」


「はふっ……、ちょ、レナちゃんだめだって! ……へんな気分になっちゃう」


「うふふ、アシュちゃんてば、……カワイーんだからぁ」


 最初の展開はいざ知らず、場に馴染んできたレナはいやらしくも優しい手付きで、乳に限らずアシュリーの上半身を優しく撫で回していく。


「ちょっ、ちょっと待って、あ、あたし別に女の子が好きなわけじゃ……」


「……わかってるって〜? 女の子じゃなくてぇ、……わたしが好きなんでしょ〜?」


「いや、……そんな」


「もう、状態だってば〜、でもアシュちゃんの照れてるとこカワイ〜」


 怪しげな笑みを浮かべたレナが耳元で囁くと、アシュリーは力の抜けた様子でかろうじて言葉だけで抵抗を見せる。


 その弱々しい抵抗には、女性らしい恥じらいと可愛らしさが多分に含まれていて、こちらまでへんな気分になってしまいそうだ。


 しかし。


「あの〜、アシュリーさん?」


 俺店のテーブルの上から甲高い声でアシュリーに声をかけると、ホッとしたようにこちらを向く。


「え?」


「その……、言いにくいんだが、頼みがある」


「な〜に? クナイちゃんのお願いだったら何でも聞いちゃう」


 アシュリーは可愛らしく両手を前で組んでそう言ってくれる。……どうせならレナに言われてみたい。


「その、なんというか、アシュリー、の方からも、レナを攻めては貰えないだろうか?」


「……なんで?」


 言った瞬間、今度はレナが軽く睨みつけながら聞いてくる。


「その……、それは……、えーっと……」


「えーっと、なに?」


 いかん、酷く冷めた目をしていらっしゃる! 最近上がりつつある好感度が……。


「…………いや、ち、違うんだ! ほら? 俺はほら! 平等主義者じゃないか? だからその、一方的なそーいうかんじが……その」


「嘘ついたら嫌いになっちゃうから」



 ああ、俺はいつから、こんなにも女に弱くなったのだろうか。


「……………………レナの乱れる姿が見てみたかったんですごめんなさい」


 もしも神がいるのならば、たった一つ願うこと。


 魔法のような力なんていらないし、過去になんて戻れなくてもいい。


 ただチャンスを、レナにいいとこ見せるチャンスを与えてほしい。


 ならば俺はやってやる、自分の力で見せてやる。


 俺はかっこいい男なんだってことを。


 …………恥ずかしい。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る