欠番。それはどういうことだ。

 

 通常、現行のソーサルが死に次代のソーサルが生まれるまでは特に決まったパターンはなかった。次の日でもあれば、年をまたぐこともある。しかし、その間は長くても数年以内というのが普通だった。それこそが、この戦争を無限に続かせる悪魔の連鎖ともいえる。


 そこで雪華は口を手で覆った。あり得ない仮説だ。けれどもし、それが真実だとしたら。祥介の未来に待っているのは。


 雪華の辿り着いた結論を見かねて、蓮華は言った。


「自らの力を知らずに生まれて、普通に生活している可能性は否定できない。戦う意思がなければ固有能力は発動しないし、自覚がなければ運動神経が凄くいい人間というだけで終わる。実際、無自覚でオリンピック選手になって金メダルをとったソーサルがいたわ。

 そういうのほど、殺しやすいソーサルはいないからね。リベラシオンは世界中を躍起になって探しているけど、見つかっていない。でもね、私たちにはわかるのよ。ソーサルナンバーはナンバー同士で存在を認識することが出来る。居場所まではわからないけれど、生きているか死んでいるかくらいはわかる。シエテとユイトは存在していない。この世界のどこにもいない」


 雪華は俯いて聞いていた顔を上げる。蓮華の言ったことはつまりはこういうことだった。


「…………エフィスに殺されたソーサルは、転生しない」


 蓮華は頷いた。


「あなたもわかっているでしょうけど、この世界で起こっている争いは根が深い。原因の一つにソーサルはどう足掻いても消えないというものがある。けれど、その縛りが解ければ、状況は変わる。確実に」


 蓮華は意気揚々と語っていた。まるで来週のピクニックの計画を話すように。


「エフィスもうまく覚醒したし、そろそろリベラシオンには消えてもらおうかしらね。天然記念物の三賢族ももういらないわ。最後にヘルシャフトにも消えてもらいましょう。ソーサルもなにもかもなくなれば世界は変わる。平穏は必ず訪れるわ」


「……ソーサル全員を殺させるっていうの? 祥介に」


 それがどういうことを意味しているのか、この人はわかっているのか。

 そんな雪華の戸惑いを一蹴するように蓮華は言った。


「ええ。もちろん殺してもらうわよ。私と、綾奈のこともね」


 蓮華はその日が楽しみだというように笑った。つられて悠雀も笑う。


「忙しくなりますね、これから」


「ええ、本当に」


 二人の笑い声が部屋に響く。雪華は自分が座る椅子だけが別の空間にいるように感じた。

 成し遂げるものがあるということ。これがこの人たちの意思ということか。ぶれない意思を持つ人間が一番強い。いつか悠雀にそう教えられた意味がよくわかった気がした。雪華は出されたコーヒーを見つめる。真っ黒な液体が先行きの見えない不安を駆り立てていた。


 私は、私のヒーローを守る。


 それが私が成し遂げたいことだった。何があってもそれだけは揺るがない。雪華はカップにミルク入れると、黒は柔らかい茶色へと徐々に変わっていった。

 やるべきことをやろう。兄を守れるのは、私だけだ。


 雪華が強く決意するなか、二人の笑い声がいつまでも耳に残っていた。

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エフィス・グランツ 名月 遙 @tsukiharu

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