第6話

 今回で八件目。


 何か見られてる気がする、という勘の良い女子からの依頼が来たのは三ヶ月前だ。そこから同様の手口を探し続けて今回で八件目だった。 


 霊符は霊気が無くなればただの紙だ。もう一度同じ効力を出すには霊気を送り込まなければならない。高額で霊符とヘッドセットを買わせ、霊力が切れれば再び金を要求する悪質な商売だった。

 どんなに捕まえても元を断たなければ意味が無い。祥介達の任務は霊符を使用している人(繰り返すがこっちも被害者ではある)を見つけ霊符を回収することだった。

 向こうからすれば金づるがどんどん消されているわけだから、何かしらアクションしてくるかもしれないという考えはあったのだが、まさかこんな形でやってくるとは。

 

 祥介と雪華は熊二匹は楽しく遊べるくらいのスペースの檻の中に閉じ込められていた。

 見える範囲で檻の外を見渡すが、打ちっ放しのコンクリート壁の部屋で檻以外には何もなかった。声の響き具合から地下室かもしれない。柵越しにはいかにもガラの悪い数人のチンピラがニヤニヤとこっちを見て笑っている。


 微動せずにその場に立っていた祥介達の前に、奥の扉から男が現れた。周りのチンピラの態度や身なりからしてリーダー格なのは明らかだった。高そうな生地で織られた白いスーツにキラキラした装飾品が腕に首に耳に。第一印象をここまで堕とす外見は初めてみた気がする。


「ガキか。意外だな」


 男は用意されたパイプ椅子に腰を掛けた。そして、祥介と雪華を見下すように見た。


「でもまぁ霊術師だよな。あぁお嬢ちゃんの方。太ももに入ってるそのゴツい拳銃を使うのはやめておけよ。跳弾して大惨事になるぜ」


 そう言われ、祥介は檻の方へ目を向ける。

 ああ、確かによく見ると鉄格子の柵には薄いベールのようなものがかかって見えた。結界の類いだろう。

 

「若。女のガキの方は使い道があるんじゃないすか」


「そうだな。捕まえたのは男だけということにしよう。それだけでも十分だ」


 祥介が頭痛に顔をしかめたのは、品のない会話を聞いたからではない。

 閉じ込められたから、というわけでもない。


 連中がここまで思慮に欠けるとは思わなかったのだ。姿を現した時点で、もう勝負はついているということにまだ気付いていない。


 雪華が舌打ちをしたあと、ため息をつく。同じことを思ったのかもしれない。何しろ常に機嫌が悪いお嬢ちゃんなので、その感情は読み切れなかった。


 雪華が短く息を吸ったと思った瞬間、銃声が鳴り響いた。

 常人をはるかに超えた雪華の早撃ちは文字通りの一瞬だ。そして霊気が込められた銃弾の威力は目の前に敷かれた薄い結界など遮る障害ではない。銃声と共に繰り出された一発の弾丸は結界を突き破り、リーダー格の男の左肩を貫いた。男の肩からは血が噴き出し断末魔のような叫びが室内に木霊する。


 何が起きたのか唖然としている男たちを前に祥介も動き出した。

 雪華に任せればリーダーさえ生きていればあとは殺していいと考えかねないからだ。檻の鉄格子を蹴破り、瞬速で一人ずつ一撃で意識を奪う。霊術師はリーダー各の男だけで他の男達は普通の人間だ。

 祥介の身体能力を向上させる霊術師の基本霊術『身体武装しんたいぶそう』について行ける者は皆無だった。


「余計なことしないでよ」


 一通り倒し終えたあとで、雪華がゆっくりと檻から出てきた。


「いやお前、他の奴には加減しなそうだったからさ」


「殺しはしないわ」


 雪華は肩をすくめて拳銃をホルスターに収めた。


 その顔は多分一生歩けないようにするつもりくらいはあったのではと思った。まったく恐ろしい妹である。

 そんな妹に祥介がちょっと引いている間に、リーダー格の男がいなくなっていた。部屋唯一の扉は開け放たれたままだった。足跡のように血が扉の外へと続いている。


「やべ、追いかけないと」


「必要ない」


 雪華は端的にそう言うと、天井を指差した。


「もう来てるわ」


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