第4話

 二人は廊下の奥にある部屋の前につき、絶対入るなと汚い字で書かれたコピー用紙が貼られた引き戸の扉を開けた。

 なかはごく普通の男子中学生の部屋で目立った特徴があるわけではなかった。一つ、あるとすれば部屋の主、本人であろう。

 一般的な体つきの中学生の少年は机の椅子に座り、頭には目元まで覆われた巷で人気のVR機器のようなごついヘッドセットが装着されていた。

 

 雪華は彼を存在してはならない嫌悪物だというような眼で、後ろから強引にヘッドセットを外した。少年は、あっと情けない声を出す。


「おいっ! ばばぁ! 何勝手に……」


 見慣れた顔がそこにあると思ったのだろう。振り返った少年は呆気にとられ言葉を失っていた。


「母親が撃たれてる最中に、随分と楽しいことをしていたようね」

 

 撃ったのはお前だけどな、と祥介は心内で呟く。雪華の冷たい声は黒い怒りが滲み、熱を帯びはじめていた。こうなったらもうだめだ。


「誰だよ、お前ら……土足じゃねぇか!」


 スイッチが切り替わったように叫び出した少年をよそに、祥介は雪華からヘッドセットを受け取る。機器を改造されたものでコードなどはついていない。代わりに頭頂部には『霊符』と呼ばれるものが貼られていた。

 何気なく祥介はヘッドセットを被ってみた。

 目の前に映ったのは中学生くらいの女子が風呂に入っている映像だった。録画ではなくリアルタイムの盗撮映像だ。ヘッドセットの側面のボタンを押すと画面が切り替わり、別の部屋が映される。そこは女子の部屋のようで先ほど風呂に入っていた子の部屋と考えていいだろう。


「なるほどね……前回よりレベルアップしてるな」

 

 前に回収したものは浴室しか見られなかったが、今回は自室も見れる。まるで商業施設の防犯カメラのようだ。他にもトイレやリビングと切り替えることができた。台所では女子の母親らしい女性が夕食の準備をしている。平和な光景のはずなのに胸が痛くなった。


 突如、身を震わせるような殺気を感じ祥介は慌ててヘッドセットを外した。目の前には雪華の怒りの矛先がこちらに向いていた。


「か、確認だよ。見てないって」


 弁明するも雪華は舌打ちを大きく鳴らした。

 

 まぁ浴室の最中は若干見えたけれど。


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