令嬢とメイド

 ゴーモック家に到着した一行は、ロビンの案内によりアナの部屋の前まで通される。ルネサンス様式のアーチ状の廊下で、執事は今一度二人に確認する。


「宜しいですか? 先程も申しましたが、今からお見せするものは他言無用で。並びに、お嬢様にはくれぐれも失礼をなさいませんようご注意を」


「はい♪ 承知しております。初めての出張サービスですので、こちらも精一杯ご奉仕させて頂きますね!」


「あんたその言い方はちょっと……」


 ロビンは半眼で咳払いを一つし、執事らしくノックをせずにドアを開ける。


「失礼しますお嬢様。呪術師殿をお連れしたのですが、宜しいでしょうか?」


「あ、ええ……」


 様式に倣って機能性を重視した部屋には先客が二人。シックながら心ゆかしいドレスを纏った妙齢の女性と、それと同年代と思われる、セパレートタイプで露出度の高いメイド服に、動物の耳を模したカチューシャを頭に飾ったやや童顔の女性。二人はソファに腰掛けており、ロビンが入室するとすぐさまメイド姿の方は立ち上がって姿勢を正した。


「おほん。アイナ、執務中はあまり気を抜かない様に。お客様にお茶をご用意しなさい」


「は、はい。申し訳ありません。ただいま――」


 アイナと呼ばれたメイドはシャリィ達に一礼すると、足早に部屋を後にした。


「お見苦しいところをお見せしましたな。彼女、アイナ・メリルは物心ついた時からこの屋敷に務めており、歳の近いアナお嬢様とは旧知の中でして」


「いえいえ、お構いなく。アナお嬢様、お初にお目にかかります。天才黒呪術師のシャリィ・ルクルシスと申します」


「……助手のナターシャ・ケイドリッジです」


「アナ・ゴーモックと申します。遠い所をわざわざお越し頂いて申し訳ありません。――ロビン、アイナを叱らないであげて。私が話を聞いてほしいとお願いしたの」


「先程の事は言及するつもりはございません。しかし、お嬢様はいずれイオリナ家に嫁がれる身。いつまでもアイナのような心近しいメイドがいる環境に身を置いておく訳にはいかないのですぞ」


「ええ、ごめんなさい……」


「しかし、先程のメイドさん、やけにセクシーな制服でしたねぇ。シャケちゃんみたいなお耳まで付いてましたし」


「……恥ずかしながら、当主の趣味でして。その分他所のメイドより給金は弾んでおります。出来ればこちらもあまり他所に触れ回らない様にして頂けると助かるのですが」


「勿論です。それよりもシャケちゃんがこちらで御給仕さんをさせて貰えたら、私達二人分の生活費くらい余裕で賄えそうですねぇ」


「何で私があんたを養う前提で話してるのよ」



 

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