王国御三家

「申し訳ないですな。忙しいところ、急遽店を空ける事になってしまって」


「いえいえ、どうせ殆どお客さんなんて来ませんから」


 来店した老紳士はシャリィの経歴だけ確認すると、用件は移動中に、と、前金を支払い店の前に馬車を付けた。二人は早速それに乗り込み、揺れる車内で依頼内容を伺っている。


「まずは、申し遅れましたが自己紹介を。わたくしはゴーモック家第一執事、ロビン・チョーザと申します。以後お見知りおきを」


「ゴーモック家? それはまさか王国御三家の?」


 ナターシャは耳をピンと立て、腰を半分浮かす程の前のめりになる。


 王国御三家とは、王族との血の繋がりこそないものの、古くから王国の運営に大きく関わっている名家であり、“イオリナ家”、“ゴーモック家”、“エキホマー家”の三家で形成されている。国内での力関係は紹介順だが、エキホマー家だけは他二家とあまり良い関係とは言えず、現在は他国の有力者と交流を図って力を貯えている、という噂が庶民の間でも囁かれている。


「左様で。今回お願いしたいのは、当主ミカサ・ゴーモック様の息女、アナ様にかけられた呪いを解いて頂きたいのです。……が、もし解除が不可能であったとしても、この事は他言無用でお願いしたいのですが……約束出来ますかな?」


「勿論です。それで、呪いとは?」


 狭い車内、流石に帽子を脱いだシャリィの問いに、ロビンはやや顔を曇らせる。


「ええ……後程ご覧頂きますが、お嬢様の背中に大変不名誉なあざが突如現れたのです。王都中の呪術師を集めたのですが、解除は不可能でして」


「痣ですか。呪い以外、例えば病気の類の可能性は?」


「いえ、恐らくそれは無いかと。何よりお嬢様は来月、同じくエマードエ王国御三家である、イオリナ家の次期当主殿との挙式を控えております。その際お召しになる、当家に代々伝わるドレスは背中が大きく開いたデザインになっておりまして。それを着用出来ないとなりますと、このままでは挙式を延期、最悪破談という事も有り得ます。ですので何とか――」


「分かりました。この天才黒呪術師シャリィ・ルクルシスにお任せください。今回は初回サービスとして、その犯人に呪い返しのオプションもお付けいたしましょう♪」


「またそんな余計な……いえ、今後もゴーモック家の方に懇意にして頂けるのでしたら、出来る限りの事は当店でさせて頂きます。こちらこそ宜しくお願い致します」


「では、改めて契約成立ですな。期待しておりますぞ」


 三人を乗せた馬車は、サックから十里程離れたゴーモック家領地、シタロウスの街へと向かった。

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