5・「ぬくもり」

「ふうん、まだ暖かいじゃん。触ってみろよ。」


友人はキツネの毛皮をこちらへと寄越す。

受け取れば、確かに毛皮には生物特有の生ぬるさが残っていた。


だが、そこで気づく。


…何か、おかしくないか?


毛皮はもっと血抜きをしたり、なめしたりしなければならないはずだ。

なのに、これが暖かいということはまだ出来たて。


生きているかのようなぬくもりが毛皮に残っていることなどあるのだろうか。


「凄い職人だな。この道の先にそんな人がいるのなら是非会ってみたいな。」


友人はそんなことを言いながら、さらに道の奥へと進んでいく。


ますます大きくなる耳を突くようなブーンという音。

ハチの羽音は一定の調子で機械のように抑揚がない。


僕はここまで来て、ようやく気づく。


この時点で僕らは一切、野生動物の気配を感じていない。


これだけ山に入ったのだ。

鳥の一羽、タヌキの一匹ぐらいにでも出くわしても良いはず。


しかし、見つかったのは毛皮が二枚。

野生動物だったクマとキツネの毛皮が二枚。


何かがおかしい、何かが…

その時、友人が道の先を指差した。


「もしかしてあの人かな?随分先にいるみたいだけど皮を背負ってるよな。」


そうして友人は駆けていく。

道の先にいる、皮を大量に背負った大きな背中に。


パアンッ


鋭い音…友人の体が弾けたのは、その数秒後のことだった。

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