4・「言いつけ」

左右に分かれた草の道。

毛皮を持った友人とカメラを持つ僕。


道は異様なほどにまっすぐと先に続いている。

友人は誘われるかのように奥へと進み、僕は次第次第に不安になる。


「…なあ、昔じいさんとこういう道で毛皮を見つけたら帰れと言われたんだ。」


今更、遅いかもしれない。

でも、ここで言わずして、いつ言うものか。


「これ以上獲っちゃいけないと言われた。地元の人の意見だ、帰るべきだよ。」


一か八か、僕は祖父の話をしてみる。

でも、出てきたのは意外な答えだった。


「…じゃあ、俺たちは尚更先に行かなきゃな。」


それを聞いて俺は「は?」と聞き返す。


「そりゃ、これ以上、森の奥に寄せ付けない為の常套句だよ。」


友人はそう言いながらサクサクと道を進んでいく。


「お前に迷子になってほしくなかった、おじいさんの親心だぜ…それ。」


毛皮を持ち友人はさらに足を速める。


「それよりもこれだけの職人がいる集落だ。貴重な話を聞けるチャンスだよ。」


そう言われれば黙り込むしかない。


カリッという木の実を踏む音。

みれば、足元にはドングリなどの木の実がまばらに落ちている。


動物が食べた形跡はまったくと言って良いほどない。


ハチの羽音はますます大きくなっていく気がする。


「お、二枚目か。」


嬉しそうな友人の声。


…道の途中、先ほどと同じく綺麗に整えられたキツネの毛皮が落ちていた。

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