3・「森の奥」

それは木の葉の上に置かれたクマの毛皮。

綺麗に体を開かれ一枚の見事な毛皮になっている。


ふと顔を上げると、木々の先が妙に開けていた。


左右に倒れた丈の高い草。

車二台分がゆうに通れるような道。


その上を木の葉がひらりひらりと落ちていく。


「すごいなあ、これ、地元のマタギの仕事かなあ?」


そう言いながらも友人は毛皮を手に取り、道をそのまま進もうとする。

僕はその様子を見て、慌てて彼を止めた。


「なんだよ、取材だろ?この先の人に村についてインタビューしないと。」


…確かに、虫も食っていないこの毛皮はつい最近できたものと考えられる。

この先に人がいるのなら話を聞いた方が良いと考えるのは至極当然だ。


でも、不自然だ。


どうして道端にこんな綺麗な毛皮を置いていく。

それもあえて地面に置くような形で。


その時、僕の耳にかすかに唸るようなブーンという音が聞こえた。


これは、子供の頃に聴いた音。

ハチにも似た唸る音。


そして気づく。


草むらの中に倒れた木の棒。

わずかながらも布の切れ端が巻きつけられた棒。

その棒の先に繋がる細い縄は半ば腐れながら地面に埋まっていて…


「俺は先に行くぞ。こんな山の中で人が捕まるかも怪しいんだから。」


歩き出す友人。


僕は一抹の不安を覚えながらも、彼についていくほかなかった…

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る