2・「消滅集落」

山道の脇道を逸れると、そこは祖父の故郷である集落跡だ。


つる草に覆われた家。

低木や枯れ草に覆われてしまった田畑。


ほんの10年前まで人が住んでいたとは思えない。


「卒業制作とはいえ、身内の村を取り上げるのは心苦しくないか?」


監督でもあり映像コースの友人の言葉に僕は首を振る。


…祖父がこの村を去った今、僕自身この村にあまり深い思入れはない。


もともと過疎化の進んでいた地域。

集落で残っていた家は数軒もない。


その人口がさらに減っていきゼロになっただけにしか過ぎない。


年齢とともに足腰に不具合が出て親類の家に身を寄せた者。

生活に不便さを感じて街に移り住んだ者。


現に、祖父は痴呆が進み父に勧められたグループホームに住んでいる。

今の生活が祖父にとって集落時代よりも快適であることはわかりきっていた。


「…ふうん、そっか。まあ、いいけどさ。」


そう言って友人はカメラの三脚をよこす。

彼はこの消滅集落をドキュメンタリーとして撮りたいと言っていた。


「こうして、集落に誰もいなくなっちまうんだろうな。」


僕の撮った映像を見て、彼はポツリとそう呟いた。


…何軒かの家を回る。


屋根の落ちた家。

ツタのはびこる家。


それらの家々を見た友人は訝しげな顔をした。


「…ここも動物が荒らした形跡はないな。」


秋も半ば、周囲の木々は赤や黄色に色づいている。

庭の柿も重たそうに枝を垂らし、実った果実の半分が地面に転がり腐れていた。


「山間部なら、これ目当てにクマとか動物が寄って来るだろうに。」


友人は一つの柿を転がすとぎょっとしたように顔を上げる。


「…げ、あれなんだ?」


そうして友人の指差した先。

森へと続く落ち葉の溜まった地面の上。


…そこに、頭部だけを残したクマの毛皮が置かれていた。

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