皮落とし

化野生姜

1・「山の恵み」

「…ほうれ、ここに一枚あった。」


山の開けた道。

僕は祖父に手を引かれて歩いていた。


等間隔に並ぶ木々。

何かが通ったように左右に倒れた丈の高い草。


道の真ん中にぺたりと置かれた一枚の皮。

綺麗に開かれたクマの毛皮が地面に落ちている。


祖父は毛皮を丁寧に手元に引き寄せると道の奥に頭を下げた。


「これは、山の恵み…だが、これ以上は獲っちゃなんねえ。」


祖父は僕の手を取り、元来た道を引き返す。


幾重にも古着が巻きつけられ、森を囲うように等間隔に並ぶ棒。

そこに渡された紙垂しでのつけられた細い縄の下を祖父と僕はくぐる。


足元に落ちたクルミやドングリ。

獣に手付かずの状態で残った木の実。


ブーン…


ハチの羽音にも似た低い唸るような音。

その音は背後の開けた道から聞こえてくるように感じられた…

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