第17話 訳ありな理由

「こちらが報酬になります。お疲れ様でした」

 

 気絶した無銭飲食の男をギルドまで連行し、報酬を受け取った。


「少額の賞金首とはいえ、この早さの捕縛には驚きです。今後の活躍を期待しています」


 賞金稼ぎになったばかりで、その日のうちに賞金首を捕らえてきた重斗に、受付嬢は軽く驚きの表情を見せた。


「善処しよう」


 短くそれだけ言うと、重斗は報酬をしまい受付をあとにした。


「どうしたんだ、二人とも。墓場の方がもっと賑やかだぞ」


 重斗がソファまでいくと、デルニとバレッタが並んで座っているのだが、二人とも一言も発せず、気まずい沈黙が流れていた。


「……場所を変えましょうか」


 バレッタはそう言って立ち上がると、重斗に背を向けスタスタと歩いていってしまう。

 どうやらついてこい、ということらしい。


「おじさんを捕まえてからバレッタ、ずっとあんな調子で話しかけずらかったよ。何かあったの?」


 出会った当初よりも固くなったバレッタの態度に、デルニは困惑していた。


「ああ、少しだけな」


 それだけ言うと、重斗はデルニとともにバレッタのあとを追いギルドを出た。

 外では日が西に傾き、薄暗くなり始めていた。


 バレッタのあとについてしばらく街を歩くと、通りの一角にある宿屋に辿りついた。

 彼女はここに下宿しているようで、受付をしている店主の老人への挨拶もそこそこに、二階へと続く階段を上っていく。

 そして廊下の一番奥にある部屋の前まで来ると、ようやく立ち止まった。


「――【解錠ウヴリール】」


 小さく呪文を唱えてから扉を開けた。

「どうぞ。大したもてなしはできないけれど」


 バレッタに促され、部屋のなかに入る。


 広い室内は一人で寝るのに大きめなベッドの他に、簡素な造りの机と椅子しか家具がなく、ひどく殺風景だった。

 奥の壁にある黒いカーテンの付いた窓からは、街の通りが見渡せた。


「今、明かりをつけるわ」


 窓の方までいき、カーテンを閉めきったバレッタが「明かりを」と言うと、天井に吊るされたランプが灯り、部屋が明るく照らされた。

 あらかじめ合い言葉の魔法をランプにかけ、明かりがつくようにしていたらしい。


「デルニは私の隣に、あなたはその椅子に座ってちょうだい。いえ、くださいませ?」


 バレッタはベッドに腰掛けると、デルニを隣に招きながら重斗に言った。


「言葉づかいを直す必要はない。言っただろう、訳ありだと」


 へりくだった態度のバレッタに、重斗は椅子に腰掛けると、手を上げ待ったをかけた。


「俺は重斗。魔法を他人より多く知っているだけの人間。それだけだ」

「わかったわ。今はそういうことにしておきましょう。――はぁ、道理で欺瞞の魔法がまったく通じなかったり、私が半人半魔だとわかるわけだわ」


 それはそうだ。いくら姿が変わり弱くなれど、重斗は魔王、魔族を統べる者だ。下手な欺きなど効かないし、魔に属する存在はすぐにわかる。


「重斗、あなたが訳ありなのは理解できたのだけど、この娘もそうなの?」


 吹っ切れたのか、バレッタの態度は今まで通りに戻った。隣に腰掛けているデルニに視線を移して、怪訝そうに訊いてくる。


「ああ、そうだ。しかも、俺よりさらに複雑だ。――デルニ、お前の本性を見せてやれ」

「うん。わかった」

 デルニはうなずいて立ち上がると、部屋の中央で止まった。そして――


「私は――『堕天使』」


 はっきりと己が何者であるのかを述べた瞬間、彼女の腰から夜を切り取ったかの如き、黒い天使の翼が生えた。


「……う、そ……。その黒い翼、まさか、本当に堕天使だと言うの……?」


 本来の姿に戻ったデルニを見たバレッタは、かなりの衝撃を受けたのか、その場で固まってしまった。


「これが俺たちの訳ありな理由だ」


 翼をしまいバレッタの隣に座り直したデルニに、再び欺瞞の魔法をかけた。

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