第15話 賞金稼ぎギルド
「はい、これで登録作業は全て完了しました。今からあなたは正式な賞金稼ぎです」
記入した書類に目を通し終えた受付嬢が、重斗に賞金稼ぎギルドの紋章が刻まれたバッジを渡してきた。
――賞金稼ぎギルド。主に人間の犯罪者を捕らえ、ときには殺すことも辞さない賞金稼ぎを生業とする者たちが属するギルド。
重斗は食事を終えたあと、この街にあるギルドの本部までバレッタに案内してもらい、登録を済ませたのだった。
「近ごろ、魔物の行動が活発なのをいいことに、それらの襲撃に偽装された賞金首による被害が増えています。調査する際は十分に気を付けてください」
バッジを目につきやすい胸元に付けた重斗に、受付嬢が注意喚起してくる。
「わかった。せいぜい気を付けるさ」
重斗は受付嬢にうなづくと、ギルドの建物内に設置されたソファへと向かった。そこではデルニとバレッタが並んで座っていたのだが、どうも様子がおかしい。
「ん? なんだ?」
二人を遠巻きにして、建物内にいる人間たちがざわついている。
「おい、あれって『黄昏の銀弾』だろ?」
「へえ、めっずら。いつも、夕方しか来ないのに」
「うっひょー、隣の銀髪の娘も、すっげー美人」
「なあ、誰か声掛けてみろよ」
どうやら遠巻きにしている群衆は、二人の優れた容姿に色めき立っているようだ。
「待たせたな、登録を済ませてきたぞ」
「ジュウ、お帰り。それが賞金稼ぎの証? よく似合ってるよ」
重斗が声を掛けると、デルニが立ち上がって、バッジをしげしけと眺めてくる。
「登録が終わったのなら、さっそく仕事を始めましょうか。初心者に手頃なものを見繕っておいたのだわ」
バレッタも立ち上がると、ひげ面の男が描かれた一枚の紙を重斗に渡してきた。
「――――っ!」
少女たちを遠巻きにしていた群衆が、驚愕の面持ちで重斗を見てくるが、そんなことは気にも留めず、紙に描かれた男とその額を確認する。
「ノイズ・ハングリー、千五百G。条件は生存。こいつは一体どんな罪を犯したんだ?」
「罪状は食い逃げ。本来ならその程度で賞金首になることはないのだけど、三百回以上というその回数の多さと被害額からリストに載ったようね」
「ふん、くだらん」
紙を雑に畳んでポケットにしまうと、重斗はギルドの外へ出た。日は西の方に寄り始めているが、日没にはまだ時間がある。
「あなたも危うく同じ罪状を背負う羽目になりそうだったわね」
街のなかを歩きながら、意地の悪い笑みを浮かべバレッタが言う。
「一緒にするな。金ならきちんと持っていた。向こうが釣銭を用意できなかっただけだ。無銭飲食ではない」
「あの店舗十個分よりも、さらに高い価値の金貨に対して、釣銭なんて用意できるわけないでしょう?」
ハァ、とため息を吐いて、バレッタは額に手を当てる。
「これでも一番価値がないものを使ったんだがな」
重斗はポケットを漁り、一枚の金貨を取り出して日にかざす。傷一つない表面には、人間たちの国王の顔が細緻に彫られている。
会計で金貨を出したときの、ウエイトレスの仰天具合は、見ていて飽きなかった。
だが彼女には申し訳ないことをした。結局、会計はバレッタに支払ってもらったが、終いには従業員総出で見送られてしまった。
「オラクル金貨をこの街で使おうとするなんて、そんなのあなたくらいだわ」
「しかし、よく一般的に使われていない金貨がわかったな。あのウエイトレスもお前も」
金貨をポケットにしまい直し、バレッタに言う。
「それは当然ね。その金貨の贋金は造るのはもちろん、使うのも受け取るのも重罪。打ち首にされてしまうのだわ。街の役所にも写真機で撮られた貨幣表が貼られているのよ」
なるほど、と重斗は深くうなずいた。そこまでされたら見間違えるはずがないわけだ。
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