第14話 半人半魔

「あ、あの、先ほどはありがとうございました。あなたが助けてくれたんですよね」

 声の方に顔を向けると、浅黒いウエイトレスが頭を下げていた。

 恐らく、ゆっくり下ろしてやったことに対して、礼を言っているのだろう。


「気にするな。俺は料理を台無しにされたくなかっただけだ。それに、礼なら先にもらっている」

「えっ? 私、何かしましたっけ?」

 ウエイトレスは思い至らないようで、きょとんと小首を傾げる。


「いい黒色だった。まさに眼福」


 重斗はウエイトレスのスカートを指で示した。今は隠されて見えないその下を。

「――!」


 ハッと、指し示されたものに気付いたウエイトレスは、顔を真っ赤にしてスカートを両手で押さえる。


「……ジュウ、なに、ナチュラルにセクハラしてるの」


 底冷えするような声で、デルニが言う。


「俺は真実を言ったまでなんだがな」


 ふむ、と首を傾げて重斗は、パタパタと奥にいってしまったウエイトレスを見送った。


「――ふぅ、見苦しいところをお見せしたのだわ。私の名前はバレッタ。賞金稼ぎを生業としているの」


 ウエイトレスと入れ替わるようにして、先ほどの黄色い少女が、デルニの隣に当然のように腰掛けた。

 いつの間にか、喧騒はまるで嘘だったように止んでいる。


「身のほどをわきまえない馬鹿どもにはいい薬になったろう」


 この街に在中する衛兵に運ばれていく男たちを見やり、重斗は言った。


「それで、あなたたちは一体何者かしら? ここじゃ、あまり見かけない顔だけど、呪文を唱えず魔法を発動できるあなたと言い、人とは思えない容貌のこの娘と言い、ただの旅行者というわけではなさそうね」


 重斗とデルニを交互に見ながら黄色い少女は言う。


「なに、半人半魔ハーフのお嬢さん、そちらと一緒だ。少々、訳ありでな。この街には旅に必要な物を揃えようと立ち寄っただけだ」

「! ――あなたには、私の欺瞞の魔法が効かないの!?」

 人間と魔族から生まれた存在であることを魔法で欺いていたが、魔族を統べる側である重斗にはまるで意味がない。

 目を丸くして驚いているバレッタに、重斗はクツクツと笑う。


「今日はやたらと変わった者たちと出会う日だな」 

 手を上げ、栗色の巻き毛をしたウエイトレスを呼び止めると、レモネードを注文する。


「俺の名は重斗、そっちの娘はデルニだ。――よろしくな、バレッタ」


 不敵な笑みを浮かべると、重斗はバレッタに手を差し出した。

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