第8話 互いの名称
まるで、でも、みたい、でもなく、グラビテウスは正真正銘、本物の魔王だ。
ところが、デルニエルはそれをまったく知らないようだった。
「デルニエル、訊くが今の魔王の名を知っているか? ついでに暦も教えてくれ」
「え、魔王の名前? 雷の魔王、フードゥルでしょ。暦はリーニュ。それくらい私でも知ってるよ。馬鹿にしてるの?」
フフン、と鼻を鳴らして得意げにデルニエルが言うが、それは少なくともグラビテウスが創られる五百年以上は前の魔王と暦だ。
「それは昔のことだ。今の暦はセルクルという」
「そうなの? じゃあ私が閉じ込められてる間に国王様が変わっちゃったんだ」
「――それと、今の魔王はこの俺だ」
「それは嘘だよ。いくら名前がそれっぽくて魔法が使えるからってあなた、人じゃない」
くすくす笑ってデルニエルは否定した。
……何も間違ったことは言っていないのだがな。
「……まあ、これでいいのかもな。本当のことは言ったんだ。それを信じるか信じないかは俺の知ったことじゃない」
グラビテウスは、デルニエルに聞こえない程度の声で呟いた。
デルニエルというその名前、碧色の澄んだ瞳、リーニュの暦を使う。
これらの事柄から今の魔王が自分だと言うのに、グラビテウスは少し躊躇った。
だが、言わない方があとあと問題になると思い至り、正直に言ったのだ。
言ったところで、デルニエルは微塵も信じなかったが。
「ねえ、グラビテウスって名前、長いし呼びにくいから別のに変えていい?」
「人の名前を呼びにくいとは。なら、お前はどんなのがいいんだ?」
五百年もの間、恐れ敬われてきた名前が呼びにくいと言われたのは初めてだ。
グラビテウスは苦笑しながらデルニエルに尋ねた。
「そうだなぁ、グラビテって重力のことだから重いにそれっぽく足して
いいことを閃いたように、手をパンッと叩いてデルニエルは言うが、さっそく呼び方が縮まっている。
「ククク、まあ、お前がいいならそう呼んでくれ、デルニ。俺もこれからはお前のことをそう呼ぼう」
畏怖の象徴たる魔王の名前が、随分と可愛げのあるものに変わったな、とグラビテウス――重斗は苦笑を浮かべた。
「デルニ、デルニ。それが私。うん、わかった」
親しげに名前を呼ばれ、嬉しかったのか、デルニはにこやかに重斗に微笑んできた。
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