第4話 再起

「この歪な状況を打破する手段は残されています。だからこそ、私たち女神は同意の上、あなたをこの意識空間へと喚んだのです。二人が認めれば、封印された状態でもそのくらいはできますから。――リーブア、路を開きなさい」


 今の今まで隣で静観していた白い女神像に向かって、アーデスは呼び掛けた。


 ――ゴ、ゴ、ゴ、ゴ、ゴ

 重い音を立てて、リーブアの手前の床が沈み込む。


 音が完全に止まると、そこには地下へと続く階段ができていた。


 グラビテウスは立ち上がると階段の前へと歩いていった。


「――降りろ。その先にお前に必要なものがある。使いこなせるかはお前次第だがな」


 攻撃的な口調なリーブアの声が、グラビテウスの頭に響く。


 敵意を隠そうともしない声音から、彼女が今まで無口だったのは、ただ負の権化たる自分と会話したくなかっただけなのだと悟った。


「気を悪くしないでください、我が魔王様。私が勇者に対してそうであるように、リーブアと魔王様の相性が合ってないだけですから」

「ああ、わかってる。大丈夫だ。気にしていない」


 石像なので表情はまったく変わらないが、その声音からアーデスは間違いなく笑っている、と確信しながらグラビテウスは軽くうなずいた。


「その階段の先には『理に反する者』がいます。それとどう接するかは魔王様にお任せしますが、能力は確かです」

「『理に反する者』? お前ら女神は、ただの人間に成り果てたこの俺に、一体何をさせようっていうんだ?」


 二人の女神が意図するところがわからず、グラビテウスは首を傾げる。


「魔王様にはこの世界の規則に従い、もう一度勇者と闘って確実に散ってもらいます。勇者の存在は、力のほとんどを使い果たした魔王様よりも希薄で、どこにいるのか私たちでも感知できません。ですが、生きていることは確かです」

「――勇者ともう一度闘う、か。こっちとしては願ったり叶ったりだ。だが、それと『理に反する者』となんの関係がある?」


 暗くて先の見えない階段を見下ろしながら、アーデスに尋ねた。


「我が魔王様と勇者の闘いに水を差すなど、なんらかの強大な力が介入しなくては不可能です。そんな規則破り相手には、こちらも規則破りで対抗するべきかと」

「目には目を歯には歯を、か。――面白いな!」


 勇者と闘ったにもかかわらず、死ぬことが叶わず女神に喚ばれる。

 しかも冴えない少年の姿に身体が創り変わっている。と、わけのわからない状況が続いていた。

 だが、そんなグラビテウスにもようやく理解できた。――敵がいたのだ、と。

 

 その目的と手段、人数の全てが不明。


 しかし、勇者との闘いに横槍を入れた時点で、グラビテウスの敵であると確定した。

 敵がいるならば、ただ全力をもって圧し潰すのみだ。


「今の俺は本来の半分にすら満たない魔力しかないからな。使えるものはなんでも使わせてもらおう」


 ニィっと口に笑みを浮かべると、グラビテウスは階段を下り始めた。


「いってくる。次に会うのは俺が生まれ変わるときだ」

「いってらっしゃい。我が愛しの魔王様」


 最後にグラビテウスが声を掛けると、そんな優しい返事で女神は応えた。


 ――母親とはこういうものだろうか。


 階段を下りながら考えてみるが、完璧な存在として創られ、誰かに育てられたことのないグラビテウスにはわからなかった。

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