吹き抜けた風が

チタン

第1話

 風が頬を撫でていく。

風に乗ってきた花の香りで、あなたのことを思い出す。


 あなたはこの花が好きだと言っていた。

「さようなら」と告げた日もそういえばこんな季節だった。

 別れの言葉を交わしても、あなたへの想いは消えてはくれない。


 今でもあなたに会いたいのに、あなたの声で呼んで欲しいのに、もうあなたには会えない。

 忘れようと思ったはずなのに、そう思うほど思い出す。

 もう泣かないって決めたはずなのに、時々泣いてしまうのはなぜだろう。

 けどこの気持ちすらも、もうしばらく時間が経てばきっと失くなってしまうだろう。

 だからこの涙すらも大切にしたい、あなたとの唯一の繋がりだから。


 あなたはきっとこんな風に涙を流してはいないでしょう。あの頃は想い合っていたのに、今では私だけが想っている。私はきっと、それが一番悲しいのだ。


 風が吹き抜け、頬に一筋の涙が伝った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

吹き抜けた風が チタン @buntaito

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ