第266話 266 城の中の反乱分子


 ゾンビや魔物達の攻撃は強引だったが、こちらの反撃も強引だ。

 むやみやたらと数で押してくるだけの魔物を蹴散らして進む。


 通りを抜けて城を囲む高い壁に沿う幅の広い大通りにぶつかった。

 壁のせいで城の中は見えないが、首を横に振れば城の正面入り口も見える。

 今度はそこを目指して、その大通りを進む。

 壁際に進めば、そこは人が登れないただの塀なのかゾンビも降ってはこない。

 だから、上を気にせず横からの攻撃だけに専念できた、なので移動も速くなる。

 「塀を越えれば、城前は広場に広い道だけで背の高い建物も無い」

 幾つかの庁舎が並ぶが何れも古い感じの背の低い建物ばかりだった筈、貴族軍の司令部は特に古かった様だが、他も似たり寄ったりだ。

 どうでもいい威厳ってヤツを醸し出す為の見栄でだろうが、今はそれが役に立つ。

 そんな殆ど木造に近い建物は隠れていてもバリケードにもならん。

 「いったんそこに飛び込め」

 いや、城に敵が入り込まれた時の為にわざとそうしていたのかも知れない。

 頑丈な城から攻撃をしやすい様にか。

 しかし、その城も外から見る限りでは、もう崩れて無いのだが。


 

 塀の切れ目。

 正面入り口には居る筈の近衛兵の姿も見えない。

 当たり前の事なのだろう、崩壊した城を守る意味も無いのだから。

 と、そのまま中に飛び込んだ俺の目には、一両の戦車だけが見えた。

 その親衛隊の使うルノーft-17軽戦車が門を越えた所、ど真ん中にお尻の尾橇をこちら外に向けて停まっている。

 側には引き摺り出されたのか親衛隊が転がっていたのだが、近くにはゾンビも魔物も視線の中には居そうもない様だ。


 その戦車の向こう側の先には瓦礫とかした元城が山となって見える。

 そこまでは随分と距離が有るがしかし完全に崩壊していた。

 壁に穴が空くとか、屋根が落ちるとかのレベルではない。

 昔に映像で見たビルの爆破解体のその後の様な感じだ。

 それは中から支える柱の全てに爆薬を仕掛けたとわかる。

 そう……魔物が暴れただけではこうは為らない。


 塀の中に全員が入り、後方に為った門を3号と4号で塞ぐ指示を出し。

 「いったい何が有ったんだ?」

 辺りを確認し残りの兵と車輌で警戒をさせて、俺はルノーft-17軽戦車の横に車を停めて親衛隊を見下ろす。

 既に死んでいるのは一目でわかった。

 

 もう一度ルノーft-17軽戦車を見る。

 尾橇が外を向いていると言う事は、戦車は城に向いている。

 親衛隊が城を砲撃したのか?

 にしては、足下の親衛隊の兵は殺されていた。

 死体は引き摺られてなぶり殺しだ。

 やったのはゾンビか。

 回りには抵抗の跡も見られない所を見ると、街の住人の成りで近付いたゾンビにイキナリ襲われて反撃も出来なかったと、そんな感じの様だ。

 腰にぶら下がる短剣は鞘に収まったそのままで、銃を抜いた形跡もない。

 

 「短剣をぶら下げているとは、親衛隊の偉いさんですかね」

 マンセルも戦車から降りてきたのか俺の後ろに立っていた。

 そう言えばと思い出す。

 今まで何人かの親衛隊を俺も見たが、誰も短剣などは持っていなかった。

 アン達を拐った自称司令官ですら腰には下げては居なかった筈だが……階級に関係が有るのだろうか?

 「鎖で引っ掛けて有るね」

 ヴィーゼも俺に着いてヴェスペから降りて来て、その短剣を死体から剥がして俺に見せてくる。

 

 俺は探検を受け取り、しげしげと眺める……。

 


 ……。

 ……何処かの部屋の様だ。

 俺? ではない……私だ。

 私は部屋の隅に立ち、目の前の二人の男を見ている。

 1人は公爵……近衛兵の親玉だ。

 もう1人は元国王。

 どちらも私に緊張を強いる存在だ。


 そして、ここは城の中の一室。

 それもまた緊張の種でもある。


 その二人の会話は……それ以上に緊張させられた。


 「フェイク・エルフとロンバルディアは同時に滅ぶ」

 それは元国王が言った言葉だ。

 

 「それは……どういう事ですか?」

 公爵は眉間にシワを寄せて聞いていた。


 「どちらの国にもワシの私兵が潜り込んでおる、後は切っ掛けだけじゃ」


 「クーデター……ですか」


 「そうじゃな」

 頷いた元国王。

 「でだ、貴様は王に成りたくは無いか?」


 「王ですか?」

 明らかに戸惑っている公爵。

 言葉の真意を計りかねている様にも見える。

 試されているのか?

 それとも本気なのだろうか。

 その両方の答えのどちらが正解なのだろうか、と。

 そして出した答えは、どっち付かずのも。

 「王に憧れる者は多いでしょう、私もそうですが……いざ王と成れば、私には荷が重すぎるかと……」

 もし本気ならばその答えに否定を期待してか? だろう。

 

 だが、元国王はそれには否定も肯定もせずに、面倒臭そうに自分の頭をポリポリと指で掻く。

 と、侯爵の背後にいつの間にかに2つの小さな影。

 

 その影、2人の少女なのだが、そのうちの1人は見知っていた。

 何時も元国王と一緒に居る錬金術師のマリー。

 不思議な少女で始めて見た時から成長をしていない、もう何十年もだ。


 そして、もう1人の少女は……何処かで見掛けたがと、考える。

 たしか……最近に色々と噂に上がる、ヴェルダン家の男が連れていた娘だと思い出した。

 名前は知らない。


 その少女が公爵の前に立つ。

 困惑した公爵が元国王に尋ねた。

 「この娘は?」


 「百合子よ」

 それに答えたのはマリーの方。

 

 だがその本人の百合子と呼ばれた方がそれを否定する。

 「今は花音」

 

 「どっちだっていいわよ」

 少し苦笑いのマリーは肩を小さく竦めて。

 「それよりも……」

 と、公爵を顎で指した。


 頷いた花音と名乗った少女は、公爵に手を差し伸ばす。

 握手を求める様な仕草で。

 そして、恐る恐るだがそれに答えた侯爵。

 元国王が見守る中、その元国王と常に一緒に居るマリーと言う少女が連れてきた花音と言う少女。

 その求めを拒否する事などは、公爵には出来ない。

 

 その握られた手。

 それが小さく光を放ち始めた。

 そして花音が元国王を見て。

 「どう記憶を書き換えればいいの?」


 頷いた元国王は。

 「そうじゃな、簡単に今回のクーデターの首謀者……計画を練った者にでもしてもらおうかの」

 

 それに小さく頷いた花音は、目を瞑りナニやら呟き始めた。

 手を覆う光が公爵の腕を伝わり頭を光らせる。

 暫くはそのままで、突然その光が弾けたと思えば、公爵が喋り始めた。

 「元国王、この度は無理を聞いて戴いて感謝します」

 

 「なに、ワシも思うところが有るのでな……協力は惜しまんさ」

 頷いて。

 「でだ、ワシの私兵を預けようと思うのだが……」


 「私兵と言いますと、ゾンビ兵ですか?」

 私も噂では聞いた事が有る。

 元国王の最強の兵士達。


 「うむ……じゃが、少し問題が有るのでな」

 チラリとマリーを見る元国王。


 「そうねゾンビは沢山居るけど、貴方の言う事をそのまま聞いてくれるとも思えないわね」


 「そうなのですか?」

 元国王を見て。

 「元国王の指示でもですか?」


 「ゾンビとは言っても、それぞれが個人の意思を持つのよ、自分の思いと違うと思えば裏切るかも知れないわよ」

 マリーは元国王を指差して。

 「この男も自分がゾンビにした者に散々に殺されそうに成ったりしたんだし……言う事を聞かないなんて普通の事よ」


 「そうなのですか……」


 「まあ、この街の住人の殆ど……貴族以外はだけどゾンビだし、貴方のやることを見逃すくらいはしてくれる筈よ」


 「え、そうなの?」

 驚いて居るのは花音だ。

 私も驚いて居るの……顔には出さないが、始めて知る事実だ。


 それには答えないマリーは、自分の顎に手を当てて。

 「新しくゾンビを造ろうかしら」

 頷いて。

 「指示された命令だけを聞く、意思を持たないゾンビ」

 

 「そんなの出来るの?」


 今度はマリーも花音の方を向いた。

 「ホムンクルスをゾンビ化……この場合はゴーレム化かな? にすれば意思は持たないでしょう?」


 「ホムンクルスか……まだそんなモノを研究しとったのか?」

 元国王も笑いながらに話に加わり出した。



 ホムンクルスにゾンビ。

 そして国の転覆。

 私は、流石に震えが止まらないと、左の腰にぶら下げた短剣がチリチリと音を立てるのを、押さえて必死で堪える。

 しかし私だけではない、すべての親衛隊員もこの二人の共犯なのだ。

 元国王との約束……奴隷の解放。

 その為にも、今は何も考えないのが最善だと、直立不動を自分に課す。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る