第258話 258 大佐の居場所


 「成る程……わかった」

 目の前に立つクレイブに頷いて見せた。

 暴動を仕掛けた本人だ、間違いのない情報と言うワケだ。

 「しかし、よくそれを思い付いたな」

 二重スパイと成りながら、敵の懐に忍び込んでの情報戦の集大成って事か。

 俺は感心仕切りに、ズボンのポケットから煙草を出して火を着けた。


 「この作戦は、元は私達兄弟の情報では有りますが……考えた者は別の人間です」

 

 「ほう……ロンバルディアにもそんな優秀なヤツが居るのか」


 「はい……」

 少し躊躇して。

 「元国王です」


 あのジジイか!

 いや、考えたのは横に居た錬金術師のマリーなのかも知れないが……成る程、転生者で国王に成り上がった男だ。

 嫌らしい戦術は御手の物か。

 

 そして、クレイブが躊躇した理由もわかった。

 この話は極秘なのだろう。

 が、俺と元国王は同族と聞いていて……だから話したのだ。


 「しかし……と為れば、俺の聞いたロンバルディアの崩壊は別の事か……」

 俺は煙草と一緒に顎を押さえる。

 

 「ロンバルディアには国防警察軍や親衛隊が居ますから……暴動ごときではどうにも成りませんよ」

 クレイブはそれに首を振る。


 そして、俺はもう一度考えた。

 「その国防警察軍と親衛隊が衝突すれば……どちらが勝つ?」

 2つは敵対していた。


 「互角ですね……近衛兵が着いた方が勝ちです」


 「例えば、国民や奴隷が親衛隊の側に着けば?」


 「そうなれば……」

 考え込んだクレイブ。

 「それは暴動では無くてクーデターですね……国防警察と近衛兵でも抑えきれるか……と……」


 「近衛兵は、必ずロンバルディアを護るのか?」

 俺はその近衛兵をよく知らない。


 「それは勿論です、近衛兵は元国王がつくった最強の兵達です……城の守りは鉄壁です」

 頷いて。

 「やはりクーデターも無理でしょう、近衛兵と国防警察軍に止められるだけです」

 

 力強く言いきったクレイブ。

 しかし、その近衛兵をそこまで信用出来るのだろうか?

 近衛兵が元国王を裏切るかも知れない。

 何より近衛兵の長官は死んだ侯爵の義理の父親で、俺に罪を着せようとした男だ。

 俺にはヤツが怪しく感じるが……まあそれは良い。

 証拠は何処にも無い、ただの勘だ。

 それも私情が相当に入っている。

 俺にはマトモな評価は下せないだろう。


 それと、もう一つ疑問が残る。

 大佐は何故に連絡を絶った。

 何処からか情報が漏れるのを恐れたのか?

 こちらもスパイを送っているのだ。

 相手もと考えたか……。

 それとも大佐が裏切る積もりなのかと……そこまで考えて。

 それは無さそうだと首を振る。


 「今は大佐は何処に居る?」


 突然に変わった話に驚いた様子のクレイブは素直に答えた。

 「ここからは50km程の距離の村に居ます」

 

 「こことその村の間に敵が入り込んだか……」


 「はい、今は囲まれて居ます」

 

 「違うのだろう、フェイク・エルフの一般市民に人質のフリをさせているのだろう?」

 今はでは無くて、ずっと前から囲まれているのだろう。

 だから、連絡をとるのが難しかった。

 そしてクレイブがワザワザ夜中に俺に会いに来たのも、敵の目を交わす為。

 

 大佐は賭けに出たのだ。

 奴隷から解放された一般市民を大挙させて首都に送り込めば、その暴動に乗じて国を落とす積もりだ。

 暴動を隠れ蓑にして、一気に首都の教会を潰して……もう一段暴動を拡げる。

 そんな作戦なのだろう。

 元は元国王の作戦だが、少し脳筋な大佐の考えが混じっている。

 でもまあ、悪くは無いとも思う。

 被害は大きいが、それはまた暴動に薪をくべる様なモノにも為るだろう。

 要は首都さえ落とせば、残った敵はエルフだけに成る。

 戦争の終わりも見えてくる。

 ただ、それを強引にやろうとすると身動きが取り難く成った……そんな感じか。


 「首都は何処に在る?」


 「大佐の村から100km程先に在ります」


 随分と肉薄しているな。

 「大佐は何日……村に滞在している?」


 「一週間程です……村を出ようとすると砲撃を受けるので……」


 「膠着状態か……」

 もう一度、大きく頷いて。

 「なら、俺達が後ろから押してやろう」


 間に居る敵を攻撃してやれば、大佐は前だけに集中出来る。

 後ろを気にしないで済むのは大きいだろう。

 何せ、徒歩のフェイク・エルフの市民を連れて進むのだから。


 「攻撃は……そうだな、明朝……」

 そう言い掛けて、もう日が登りそうな空色に気が付いて言い直す。

 「いや……明日の夜か?」

 疑問系で聞いたのは、明日の夜までにクレイブが大佐の所に戻って、移動出来る準備まで出来るかとの意味だ。


 そして、それに頷いたクレイブ。

 今度こそとバイクに股がろうとした、その時。

 突然にトレーラーからバルタが飛び出して来た。

 もちろん服は着ていない。

 

 「裸?」

 クレイブが俺をチラチラと見る。

 こんな子供とか?

 それとも、猫耳だから……変な趣味の持ち主と思ったか?


 だが、俺にはそれはどうでも良い。

 今、気になるのはバルタの耳の動きだ。

 俺はクレイブのバイクに近付きエンジンを掛けさせない様にアクセルを掴んでいるその手を押さえた。

 

 「何を……」

 そう言い掛けたクレイブに。

 「黙っていろ、静かにだ」


 俺の気迫に頷いたクレイブ。

 静かに動かない。


 ……。

 そして、微かにだが俺にも聞こえてきた。

 遠くで鳴る砲撃音。


 「大佐の我慢が切れた様だな」

 俺はクレイブに告げて。

 次にトレーラーの影に向いて叫ぶ。

 「誰か居るんだろう、出撃の準備だ皆を起こせ」


 出てきたのはウサ耳のララ。

 その近くにはヴァレンティナも居た。

 二人共に銃を構えている。

 見慣れないクレイブを警戒していたのだろう。


 「丁度良い、二人は俺と来てくれ大佐の村に行く」

 俺はクレイブを指差していた。

 「横に乗せてくれ」

 どうせその積もりだったのだろう?

 ただの伝言だけの筈もない。

 俺達にも攻撃に参加させる気でここに来たのは目に見えていた。

 序にサイドカーで1人なのは、それを俺が見れば飛び乗るとでも大佐に言われたか?

 それも、正解だ。

 

 

 俺はクレイブが操縦するbmw-R75のサイドカーに収まっていた。

 そして、その俺の膝の上には何故かヴィーゼが居る。

 後方からはシュビムワーゲンに乗るタヌキ耳姉妹にその両脇を走るモンキーが3台。

 更に後方にはケッテンクラートが2台だ

 街の偵察に組んだメンバーがそのままだ。

 本当のところはヴィーゼは置いて行く積もりだったのだが。

 クレイブに準備の為に10分をくれと、トレーラーに飛び込んで服を着ていた時にヴィーゼも起こしてしまったのだ。

 そうなれば仕方無い。

 駄々を捏ねられて時間をロスするのは勿体無いと、俺もヴィーゼが服を着るのを手伝って、抱えてサイドカーに飛び乗ったのだ。



 白み始めた空が明かりをばら蒔き始めていた、雪景色の原野。

 今は雪も止んでいて、空気がキラキラと瞬いている。

 そんな中を、積もった雪を蹴飛ばしながらに走るサイドカーを操縦するクレイブ。

 後ろでその雪を被りながらに着いてくるシュビムワーゲン。

 そして、誰の耳にも届く砲撃の音。


 「この砲撃をしてくる奴等は……フェイク・エルフも混ざって居るのだろう?」

 俺はバイクの音に負けないように叫ぶ。


 「はい……教会の兵士は影響を受けているわけでは無い様で……」

 クレイブも負けじと叫び返してきた。


 それはそうだろう。

 敵の領地に踏み込めば、その都度教会を建てていてはスピードも何も有ったもんじゃ無い。

 俺はカードに触れて、コレに近いモノも有るのだろう。

 教会のエリア外でも奴隷として縛れる何かだ。


 俺は進行方向の小高い丘を指差して。

 「一度、あそこで止めてくれ」


 「何か有るのですか?」


 「この子を使う」

 膝の上のヴィーゼを示す様にして。

 ヴィーゼもそれに頷いていた。

 雪が止んで、コレだけ明るく成れば少しは見えるかも知れないと、俺もヴィーゼもそう思ったのだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る