第21話 021 エルフ共和国
ショッピングモールの探索を終えて戦車に戻った俺達。
抱えた荷物を車内に適当に押し込んで、移動を開始した。
「猪……居ないね」
まあ、ここは本命じゃあ無いのだが。
「出来立てのダンジョンではまだ、ここの魔物も産まれていないだろうからな」
マンセルは少し怒っている様だ。
「確かに逃げ込むという可能性は有るのだろうけど……そんな確率よりも自分の本来のテリトリーに戻るだろう」
鼻息一つ。
「無駄足だ」
「一応は町の中をグルっと回って……森に行こう」
キューポラの開いたハッチを椅子にして、穴に足を掛けながらに言う。
その姿勢に成ったのは、別に格好を着けてじゃない。
……荷物が増えて、狭いのだ。
キュラキュラと履帯がアスファルトを掻く音が街に響く。
排気音も合わせて結構な音だ。
ビルの谷間で反射して響き渡る。
これだけの音だ、ただ走るだけでその存在を魔物に示すことに成る筈だ。
居れば、向こうから出て来てくれるだろう。
その前にバルタが見つけるのだろうが。
「フアア……あれ? バルタちゃん服が」
ヴィーゼが目を覚ました様だ。
「ヴィーゼのぶんも有るわよ、後で着替えましょう」
バルタは横の紙袋叩いた。
戦車内の二人の会話だ。
……。
「あれ? 何故に聞こえる?」
「今更ですかい?」
マンセルが呆れた声で。
「二人が奴隷だからですよ、私は雇用契約ですけどね」
「どういう事だ?」
「奴隷契約の魔法は本来はエルフ化の魔法なんですよ……」
少し伺って。
「ホントに知らないんですか?」
「知らん」
そもそもエルフってなんだ?
見たこともない。
「エルフは意識の共有する種族で、国1つで1つの意識なんですよ……有り体に言えば心が共用、隣の家の誰かがトイレに入るとそれが誰かでその排泄物の大きさも色も臭いもわかるんですよ」
「なんだそれは……プライバシーが無いじゃあないか」
「そんなもんは言葉すら存在しませんよ、まあ元々が喋る事も苦手な奴等で言語自体も遅れていますがね」
「喋らない? わかる?」
「全エルフで誰でも誰の心も覗けてしまうのですから喋る必要もない、意志疎通がしたければ互いに心を覗けば良いんです」
顎に手を当てて考える。
テレパシーの様なモノか。
今の俺のシャーマンの力にも似ているな、俺の場合は死者に限定されるが……それがエルフ限定の生者に変わるだけか。
「それが奴隷とどう関係が?」
「そのエルフ、どう言うわけか増え難いんです、純エルフなんですがね、人口減少に悩まされ続けていて、で、他所からエルフ以外も国民として受け入れるんですが……」
移民ってやつか。
何処かの大国もその移民政策で純血が何処かわからなく成っていたな……同じ人間なのに肌の色が違うと差別の対象にもされていた。
「その時に問題が出ましてね、コミュニケーションってのが出来ないんです」
言語の違いよりも大きく違うものな、方やテレパシーに依存でもう片方は話す事で成り立っている……形態が違いすぎる」
「で、折衷案が奴隷紋……本来はエルフ化紋で魔法です」
一呼吸を置き。
「心の中で言語を使って話すんです、口は使わずにね……」
「エルフは言語が苦手なのだろう?」
「そうですね、だから人からは言語で、それを受け取ったエルフはイメージで……その逆もです、魔法が翻訳をしてくれているんですよ……それが人同士なら心で言語のやり取り……今の私達の様にです」
「それが奴隷……」
「奴隷の縛りとして使えると昔の人間側の誰かが気付いたんでしょうね……心で繋がるんだから、ほんの少しの制約で上下関係を付ければ逃げる事も逆らう事も出来ないんですから」
「酷い話だな」
完全に心からの奴隷化をするのか。
「だから戦争に成ったんです」
戦争……つまりはその相手はエルフなのか?
「少し前の商業ギルドの会長が奴隷化の反対運動を始めましてね、それが広がり、方や奴隷解放運動……これは昔から別の形で在ったんですがそれのちゃんとした版で、もう一方は奴隷排斥運動……詰まりは純血の人間以外の排除を目的にした組織が産まれて今に至るわけです」
「ソコで差別が拡がった」
「そうです、その両方の組織の敵がエルフで有り、人間以外で有るので……全部とは言いませんが共通点も有る……だからエルフ共和国との戦争に成ったんです……まあ、エルフとは以前からちょくちょく戦争はしていたんですがね」
それはそうだろう、性質が違いすぎる。
人で有ろうが無かろうが、心を持てば自身と違うモノには恐怖を感じるだろう。
その恐怖に打ち勝つには戦って打ち負かすのが手っ取り早い。
だから戦争か。
「エルのもう1つの能力がそれです」
バルタが恐る恐る。
「狐の子か?」
「はい……あの子は特定の人物を指定して遠距離の会話が出来るんです……その距離に制限は有りますが」
バルタの補足。
「カラスの能力か」
マンセルが頷いている様だ。
「カラス?」
「カラスってのは通信機の事です……元はカラスって魔物の持つ遠距離通信のスキルを人が利用したのが始まりで、で、その名残で通信機の事をカラスって言うんです」
「さっきの話のエルフと似ている能力だな」
「そこまでは凄くは無いんですが……でも、そうですね」
言いよどむバルタ。
「エルちゃんの祖先にはエルフが居たからなんだよ」
ヴィーゼが軽く答えた。
「あの子はエルフの血が混じっているのか」
驚きの声のマンセル。
成る程……だから本人も言い憎そうにしていたのか。
「エルは本当の名前を知らないんです……赤ん坊の時に拐われて来て、その時に居たエルフの混血のお姉さんが名前を付けたんです……エルフの血が混じっているのがわかるからエルって」
エルフのエル……か。
「見た目は可愛いキツネっ子なのにな」
「エルフはその能力の名前で……姿形は其々です、人の姿でも獣人でも亜人でも……意志疎通の力が有ればそれがエルフです」
「そうなのか、てっきり耳の尖ったのだと思っていたが」
俺の持つ精一杯のエルフのイメージだ。
エルの耳も尖ってはいるが……キツネ耳だし。
「それは最初のエルフです、まだ少数は残っている見たいですが……イヤ、その見た目ならフェイクエルフが引き継いでいますかね」
「フェイクエルフとは?」
「エルフなのに意志疎通の能力が無い者です、それが無いが故にエルフ達からは認めてもらえない、そんな種族です……北の大地で一大帝国を築いていますよ」
たぶん……その国とも戦争をしているのだろう。
人では無いのならそう成るのが必然か。
問題はエルフとフェイクエルフの関係はどうなのだろうか。
今の話では、差別が有るようにも聞こえたが……。
まあいい、追々わかるだろう。
この国の戦争の相手がわかったのだからそれで由としよう。
おれ自身はその戦争に関わる積もりは毛頭無いんだし。
偽物の貴族だし……成り行きの戦車長なのだから。
その時、ふと気付けば戦車は草原を走っていた。
「あれ? ダンジョンは?」
「もう良いでしょう……目的の猪も居なかったのだし」
マンセルが渋い顔だ、きっと。
そそくさと出てきたのか。
確かにもうあのダンジョンに意味も無いのだが。
そこまで逃げるように出なくてもと思うのだが……まあいいか。
それも、全速力で。
もう、桜の木が見えてきているじゃないか……思わず笑ってしまう。
「あの桜の木で休憩しよう」
指差して。
「ついでにヴィーゼの着替えもな」
「着替える! 川も有るから泳ぐ!」
はしゃぎ出したヴィーゼ。
「イヤ川は寒いだろう、もうすぐ冬だろう?」
「大丈夫! 水は得意だし」
ニコニコだ。
「それに、汚い体で新しい服を着るのは絶対に嫌!」
成る程、ヴィーゼは綺麗好きか。
チラリとバルタを見た。
目を臥せるバルタ。
バルタは気にせずに着替えたけどな……とは、言わない。
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