第22話 022 二度目の森へ


 素っ裸で盛大に川に飛び込んだヴィーゼ、スイーと泳ぎも上手い。

 

 「獣人の女の子は皆、裸は恥ずかしく無いんだな」

 やっぱりかと納得。


 「イヤ……普通は恥ずかしいだろう」

 マンセルが呟く。

 「ヴィーゼは6歳だっけ? だからだろう?」


 「バルタは14歳の筈だが?」


 「バルタは人前で裸にはならんだろう」

 盛大に笑うマンセル。


 「ほう……」

 チラリとバルタを見ると。

 素知らぬ顔で空を見ている。

 まさか……ただ甘えていただけか?

 俺は親に成った覚えはないぞ。


 まあ良い。

 「ヴィーゼ、そろそろ上がれ」

 何時までも泳いでいそうだ。


 「はーい」

 返事は良いのだが。

 動きに名残惜しさが滲んでいる。

 

 ゆっくりと岸に上がったヴィーゼ。

 ブルブルと体を震わし、バッと大の字に跳ねた。

 それは……水切りか?

 「速く服を着ろ……見ているだけで寒い」


 「私のは、どれ?」

 バルタの側に走り寄る。



 出来上がりのヴィーゼは、紺のセーラーのワンピースだった。

 襟と裾にの白いラインが二本。

 そして、やっぱり袖無し。

 白い靴下に、エナメルっぽい黒い靴。

 チョッと見は何処かのお嬢さんの様だが……今さっきの素っ裸で泳いでいた姿を思うと……まるっきり似合わない。

 これもバルタの趣味が出ているのだろう、何処と無くの共通点が感じられる。

 「上着は?」

 ジャンパーか何かは無いのか? と、バルタを見る。

 だが、すぐにヴィーゼが否定した。

 「要らない、暑いの嫌い」

 紙袋から出そうとした白っぽいモコモコしたモノをもう一度押し込むバルタ。

 一応は用意をしていたようだ。

 


 ヴィーゼの分の服は無くなったが紙袋は対して減っていない。

 そう、戦車の中は相変わらずに狭いままだ。

 森に向かって走る戦車の車内で何処に体を押し込もうかと思案を巡らす。

 流石に猪と戦う時は中に入らないと危ないからだ。

 その戦う確率は今度は高い筈、でなければ何時まで経ってもこの猪退治の契約から逃げられない。

 紙袋をアッチにやりコッチにやりを何度も繰り返しているうちに。


 「森に入るぞ」

 マンセルの声。

 前回に通ったその道は少しばかしガタガタだ。

 揺れる戦車の中で動き回ると頭をぶつけるぞと、そう言いたいのだろう。

 「駄目だな……こりゃあ」

 諦めて、車外に出すか?

 と、外に出る。

 車体後方のエンジンルームの上。

 適当な所に括り着けるそんな場所を探すためにだが……出た途端に戦車の後方に人影が見えた。

 「誰か居るぞ」


 「はい、人の様です」

 バルタが普通に答える。


 「気付いて居たのか? なら速く言えよ」


 「すみません、武器も持っていない様ですし……こちらをただ見ているだけの様なので」


 「怒ってやるなよ……そんな奴を気にしてたら何時まで経っても一歩も動けないぜ」

 マンセルが擁護する。

 「ここらは、村も近いんだ普通に人も歩いているさ」


 成る程……たぶん村を出てからのここまでの道中でも何度か遭遇していたのかもしれない。

 バルタだけが気付いて、俺は気付かなかったそんな人間が。


 「しかし……こちらを見ているんだろう?」

 それがわかるバルタも凄いが。


 「はい、こちらを見ながら付いて来ています」


 「それは……ちとマズイんじゃあないか?」

 マンセルも渋い顔に成る。


 「もう少し近付いたらと……様子を見ていました」

 少しばかり不安に成ってきたのか声が小さく成る。


 「怒らないよ」

 まずは先に。

 「今度からは気付いたら教えてくれれば良い」

 そして、マンセルに。

 「戦車を停めてくれ、確認する」

 車内に手を突っ込みmp-40を掴んで戦車から飛び降りた。


 そんな姿を見たからか。

 有無を言わさずに撃たれるとでも思ったか。

 後ろの男が木陰から飛び出してくる。

 「撃たないで!」


 両手を上げた、細くヒョロっとした若い男。

 見た事が有る。

 村の村長の後ろに居た二人のうちの一人だ。

 「こんな処で何を?」

 なぜに隠れて様子を伺うように付いて来たのかは聞かないでやろう。


 「はい、この先に砦が在りまして……そこの者にも魔物退治のお願いに行こうかと……いえ、貴方方を信用していないわけではないんです、人手が多い方が魔物を見付けやすいかと……」

 慌てながらに。


 「……砦?」

 おかしな話だ……この先には盗賊が居た限りだが。

 村に近い場所で補給も考えて盗賊共がそんな素振りで近付いたのか?

 「そうか……なら、一緒に行こう」

 戦車を親指で差し。

 「後ろで良ければ乗せてやるよ」

 そうは言っても俺は銃を持っている、それは詰まりは強制って事だ。

 その砦とやらに着けばわかることだ。


 

 男を背中に乗っけて。

 俺は何時ものキューポラに後ろを向いて座り込む。

 銃はそのまま片膝を立てたその上に置いて。

 嫌な予感がする。

 「マンセル……盗賊の押し潰した門が見えて来たら声を出して叫べ」

 これは、念話だ。

 声に出さずにやってみたが、案外上手くいくもんだ。

 「了解」

 マンセルも念話で返してきた。

 そのやり取りは目の前の男には聞こえていない。


 暫く無言で進む。

 俺は目の前の男から目を離さない。

 無論、目の前の男も俺をジッと見ている。

 信用されていないか?

 ただ、怖がっているだけか?

 それとも……。

 ……。

 その答えは直ぐに出るだろう。



 「砦の門が見えたぞ!」

 マンセルが男にも聞こえるように叫ぶ。

 

 俺はそのまま男を見ている。

 その男からは、戦車の砲頭が邪魔をして門自体は見えない筈だ、俺達が押し潰した門だ。

 だが、首を振れば両脇に伸びる丸太で組んだ頑丈そうな塀は見える筈だ。

 実際に確認している様だ、キョロキョロとして。

 そして、目を瞑り頭を下げて縮こまる。

 まるで撃たれるとでも思っているかのように。

 だが……その撃つ相手はもう居ないのだが。

 盗賊は既に壊滅している。


 戦車はそのまま門を過ぎる。

 最初の頃と同じように乗り越えて。

 そして、そこで停止。


 「なんだ!」

 門の中に居た別の男が声を荒げて。

 「なにしに……」

 その続きは、戻って来た? だろう。

 それを発したのが国防警察軍の兵士だからだ。


 だが、それが発せられる前に叫びを被せる様にして、村の男が叫ぶ。

 「コイツらは敵だ! 助けてくれ!」

 

 ……。

 「何者だ?」

 国防警察軍の兵士。

 これは俺に向けての言葉なのだが。


 勘違いした様だ。

 「いきなり銃を突き付けて脅されたんだ!」

 村の男は目を瞑って下を向いたままで叫ぶ。

 「貴族だ! 国にバレたのかも知れない」

 尚も補足と張り上げた。


 「だ……そうだ」

 俺も、兵士に向けてそう告げた。


 「成る程……話を聞く必要が有りそうだ」

 

 「こいつは近くの村の男だ」


 「わかった、司令官を呼んでくる」

 頷いた兵士が踵を返した。


 この男の監視は丸投げか?

 仕方無いと、掴み直した銃口を向けた。


 その時に為って初めておかしいと気付いた様だ。

 村の男はソッと頭を上げて、辺りを伺う。

 「どう言う事だ?」

 狼狽えている。


 「ここの盗賊は……俺が退治したよ」


 「え!」

 俺を凝視して。

 「でっかい戦車を……どうした?」

 混乱しているのか?


 「それも焼き払ったよ」

 砦の真ん中に見えていた黒く焦げたt-34を指差して。


 「なぜ……高い金でやっと手にいれたのに……」

 茫然と焼けた戦車を見詰めて。

 「こんな……小さな戦車に負けるのか?」


 「小さいとは失敬だな」

 マンセルも出て来てmp-40を男に向ける。

 「実際……軽戦車では在るが」


 でも、その驚きはわからんでも無い。

 性能は確かに違いすぎる。

 明らかにこちらの戦車の方が劣っている。

 戦車の根本的な能力を比較すれば……だが。

 だが、どんなに優れていてもそれを扱うのが盗賊で素人なのだからその性能は本来のモノとは程遠いだろう。

 道具も使い方次第だ。


 それよりも俺も驚いた事が有る。

 マンセルよ……その銃。

 いったい幾つ……くすねた! 

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