第20話 020 ダンジョンでショッピング……お金は払わないけどね


 俺とバルタの二人だけで、薄暗いショッピングモールの中を歩いていた。

 ヴィーゼはそのまま寝ていたし。

 マンセルは戦車から出ようとはしなかったからだ。

 この場所の魔素が濃すぎて皮膚がピリピリとするのが嫌なのだと言っていたが。

 俺には感じないその魔素とやらの感覚はドワーフだからだろうか?

 それとも異世界人だからか?

 どちらにしろ、戦車に籠っていてもそれは同じだと思うのだが。

 そんなにダンジョンは嫌なモノなのか?


 バルタは、確かに怯えてはいるが引き籠る程でも無さそうだ。

 チラリと俺の手にしがみついて横を歩いているバルタを見た。

 おっかなビックリだが、辺りを興味深げにキョロキョロと見ている。


 今居る一階は婦人服売り場がメインのようだ、何処のショッピングモールでもそんなものかもしれないが。

 そして、俺の目的地は電気屋か、カメラ屋かだ。

 双眼鏡を手に入れたいのだ。

 たぶん上の方の階層だろうから、エスカレーターを探す。

 電気が無くて動かなくても階段代わりには為る。

 

 二階に昇ればすぐに子供服の店が目に入ってきた。

 「バルタ、着替えを貰っていくか?」


 バルタは俺よりも先に見付けていた様だ。

 その店をジッと見ている。


 「いいの?」

 上目使い。


 「ここのモノを持っていっても誰も怒らないだろう?」

 手を引いて店の中に入る。

 「どれでも好きなのを選びな」


 だが、キョロキョロと見るばかりで手に取る素振りも見せない。

 いきなり異世界の服を見せられても、どれが良いのかがわからないのだろうか?

 「マネキンの着ている服をそのまま貰っちゃえば? どうだ」

 適当に、飾られているマネキンを指す。


 頷いたバルタ。

 店の中をぐるりと一周して、1体のマネキンを指差した。


 俺はそれをそのまま抱え上げて試着室に放り込む。

 「服の着方はわかるだろう? それを脱がせてそのまま着てしまへ」


 頷いて、自分の着ている服をその場で脱ぎ始めた。


 「こらこら……中で着替えなさい」

 試着室の狭い中に追い立てる。

 

 閉められたカーテン越しに。

 「下着売り場にも行こうな」

 そう声を掛けた。

 さっき、チラッと見えてしまったがバルタは下着を着けていなかった。

 奴隷の扱い等はそんなものかと、少し腹立たしい。


 「あの……」

 カーテンを開けるバルタ。

 「脱がせられません」


 見れば、マネキンの腕がつっかえている様だ。

 そして、バルタは既にスッポンポン。

 試着室の意味が無い。

 

 苦笑いで諦めて、マネキンの腕を外してやった。

 裸に対しての羞恥心は無いのか?

 獣人だからか?

 もうついでだと着替えも手伝ってやる。


 出来上がったバルタ。

 黒をベースにした袖無しワンピース、襟とスカートの裾とそれから、肩から胸にヒラヒラの白いレースが付いている。

 靴下もヒラヒラ付きだ。

 成る程、バルタはこういう趣味か。

 

 「それだけでは寒いだろう?」

 革の袖の赤色のスカジャンを掴んで渡す。

 

 渡されたそれをジッと見て。

 チラリと俺を見る。


 趣味では無いのだろうか?

 だがそれにした意味は無い、ただ高そうに見えたからだ。

 「気に要らないなら別のにするか?」


 小さく首を振り。

 「これで良い」

 スカジャンに袖を通す。


 それに俺も頷いた。

 「じゃあ行くか?」


 だが、動かないバルタ。

 「みんなのぶん……」


 「ああ、そうか」

 笑って返す。

 「適当に選んでくれ」

 そう言って奥のレジへと向かう、紙袋くらいはソコに有るだろうと当たりを着けて。


 その後、下着売り場。

 靴屋。

 鞄屋に寄って完成。

 下着は見えないが、靴は黒のコンバースのハイカットを選び、鞄は黒のミニサイズのリュック……実用的には見えないが気に入ったのならそれで良い。

 鞄屋は寄ったというよりも、バルタが吸い込まれたのだが。

 

 そして結果、俺は大きな紙袋を3つ抱える事になった。

 面倒臭くて邪魔くさい。

 こんな事なら全員を連れてくれば良かったと少し後悔。


 「バルタ君……行くよ」

 さっきから可愛らしい小物を見付けては立ち止まる。

 そんなのに付き合っていたら時間が幾ら有っても足んワ。

 それに対して名残惜しそうな顔をする。

 「今度、全員で来よう」

 その今度は未定だが。

 

 少し寂しそうな顔に為るバルタ。

 今の俺の一言が、大人の今度だと理解したようだ。

 大人が言う今度は駄目と同意語だと。


 ……わかったよ。

 今度は本当にしてやろう。

 そのうちに……だが。

 駄目じゃあ無くてイツカの今度だ。



 次の階に辿り着いた。

 最上階ではないソコに電気屋が在った。

 少しだけホッとする。

 最上階にはマズイモノが有るに決まってる。

 フードコートとか……ゲームセンターとか。

 そんなのには絶対に引っ掛かりたくはない。


 俺は真っ直ぐに中へと進んだ。

 一番の奥はテレビとかだろう、その横ら辺りに有る筈だ。

 この店のモノは殆んどが役に立たない。

 電気の無い電化製品なんて飾りにも為らないだろう邪魔なモノだ。

 サッサと素通りして奥に。

 そして、やはりに有った。

 カメラコーナー。

 デジタルカメラにビデオカメラ……バッテリーで動くのだから充電が出来れば動かせるのだろうが……面倒臭い。

 戦車が動くのだから発電はしているのだろう、ソレをコンバータで直流から交流に変換して……もしかすると電圧が足らなくなるかもしれないからオルタネーター(発電機)を強化して……。

 そうなれば、ヒューズも配線自体も強化しなければ駄目か?

 ……。

 ホラ……面倒臭い。

 チラリとそれらに一瞥をくれてやり、もう一段奥に行く。


 有った。

 幾つかの双眼鏡。

 順番に見ていく。

 殆んどは触れる様に置いて有るのだが、端にガラスケースに修まったモノを見付けた。

 付いている値段も桁が違う。

 だが……見た目が黒くてモッサリとしていた。

 その形、誰がどう見たって双眼鏡だと言えるだろう。

 安いヤツの方がスタイリッシュだ。

 少しの思案。

 だが決め手はメーカーだった、ニコンだ有名なレンズメーカーだ。

 硝子を銃で叩き割って取り出した。

 持ってみればズシリと重い。

 試しに覗いてみる……遠くが良く見える。

 当たり前か……そう言うモノなのだから。

 安い方のヤツも覗いてみた……違いが良くわからない。

 コメカミを掻く。

 決め手がブレた。

 見た目でもう1つを取りバルタの首に掛ける。

 両方を使って使いやすい方にしよう。

 残念ながら双眼鏡に造詣は無い。

 戦車に乗るなら双眼鏡……くらいの知識しか無いのだ。


 もう用は済んだと踵を返す。

 その目の端にインスタントカメラが目に入った。

 チェキってヤツだ。

 だが俺が目に止めたのはその横のライカ製のチェキだった。

 「こんなのも有るのか!」

 思わず声が出る。

 ライカとはドイツの有名なカメラメーカーだ。

 戦場ならライカだ!

 と、思わず手が出た。

 これも貰っていこう。

 意味は無い……単に趣味だ。

 面白いモノを見付けたと喜んでいれば、その隣にはチェキワイドと言う物が置いてある。

 ワイドというだけあってフィルムが大きい、比較の現物が置いてあるのだが普通のチェキの倍の大きさの写真だ。

 次いでだと、これも貰ってバルタの首に掛けた。

 

 「これは……なんですか?」

 不思議そうに見ている。


 「カメラだよ」

 そう言って、俺の手に持つ方のライカをバルタに向けてパチリ。

 すぐに写真がニョキっと出てくる。 

 そこには驚いて、目を瞑ったバルタが写っていた。

 「ホラ、これが写真だ」

 バルタに渡してやった。


 「凄い!」

 ジッと見ながら。

 「私だ!」


 首に掛けられたモノを掴み。

 「これも同じなの?」


 頷いて返して。

 「こう……両手で持って、人差し指の所のボタンを押すのさ」

 ライカで手本を見せてやる。


 「この覗き窓を見れば良いの?」

 

 「そう、それがファインダーって言うだけどね」

 その部分を指差して。

 「ここを覗いて見えた所が写るんだよ」


 フムフムと、俺に向けてパチリ。

 ニョキっと写真が出てきた。

 「写ってる」

 と、はしゃぎ出してパチリ、パチリと色んな所を撮り出した。

 だが、すぐにフィルムが無くなり。

 「出てこない……壊れた?」


 「フィルムが無くなったんだよ」

 と、側に置いて有ったパックを指差した。

 「これが必要なんだ」


 頷いたバルタ、自分の鞄に入るだけ詰め込んだ。

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