第10話 010 誘拐


 「娘さん……どうする?」

 

 少し固まった俺を見て茫然自失と見て取ったのだろう、心配そうに声を掛けてきた。


 「助けに行くさ」


 「何処に居るかもわからないのに?」


 その問いに、俺は槍を見る。

 「わかる」

 この槍が奴等のアジトを教えてくれる筈だ。


 「コイツらに見覚えでも有るのか?」

 死んだ盗賊の死体を蹴りながら。


 「そんなところだ」

 そう答えて、木の下の男の右手の拳銃を拾う。

 グリップを握り……そして目を瞑る。


 『やあ……済まないね不覚を取ってしまったよ』

 足元の死んだ男の声が聞こえた。

 

 チラリと親父を見る。

 この声は聞こえていないようだ。


 『お嬢ちゃんを守れなかったよ』

 もう一度、木の下の死体に目を落とす。

 

 『ああ、役に立たないヤツだ』

 そう念じてみた。

 

 『そう言うなよ……痺れた状態で一人は倒したんだ』

 これで通じるようだ。


 『それでもこの様では意味はない』


 『厳しいな』


 『この銃は貰っていくぞ』


 『ああ、それで俺の仇を撃ってくれ』

 

 俺は手慣れた感じで、銃の弾倉を抜いて確認する。

 もちろん銃等を触るのも見るのも初めての事だ。

 これもシャーマンの力だ。

 「空だな……」

 思わず呟いた。


 「ああ?」

 その呟きに親父が反応した。

 「9mmなら有るぜ」


 俺は、懐の毒消しを死んだ男の腹に置いて、その場を後にした。

 

 『悪いな……もう必要無いのだが有り難く貰っておくよ……で、代金だがカードもそのままやるよ、私の全財産だ結構な額だぜ……確認してくれ』

 

 俺は、懐の男のカード取り出して、見た。


 数字と文字が書いてある。

 数字は六桁有った……金額か?

 文字の方は……(ヴェルダン・小次郎)から(ファウスト・パトローネ)へ借与……とある。

 が、見ている間に文字が変わる、(ヴェルダン・小次郎)と借与が消えた……残ったのは……ファウスト・パトローネ……のみ。

 『これは俺の名前か?』


 『早とちりでね、そう登録してしまったのだよ、直ぐに返して貰う積もりだったから間違いもそのままにしていたのだが……こうなるとは予想外だったよ』


 『妙な名前にされたもんだ……しかし、このカード……字が勝手に動いたな』

  

 『不思議なカードだろう? 俺も初めて見た時は驚いた……魔法のカードなんだぜ』


 『全財産って事は……こちらの世界に現金は無いのか?』


 『有るには有るが、もう殆ど流通してないな、皆それで済ましている』


 『ほう、まあいい……これと銃で、今回の不手際は負けといてやるよ』

 死人なのだし、責めても仕方無いしな。


 そのまま親父の所にいき。

 「済まんが、戦車ごと俺に雇われてくれ」

 そう言ってカードを差し出した。


 ニヤリと笑った親父。

 「いいぜ、俺を含めて丸ごと売ってやる」

 自身のカードを取り出して、俺が差し出したカードに当てた。

 チャリンと、音がする。

 「ファウスト・パトローネの旦那……今から俺の雇い主だ」


 「助かる」

 そう告げて戦車に乗り込んだ。


 『早速役に立ったよ……有り難うな』

 乗り込みしなに木の下の男に頭を下げた。 


 

 

 戦車は走る。

 木の下から川を横切り、そのまま真っ直ぐ。

 

 戦車が川を渡る時には驚いた。

 そのまま水の中に入っていくのだから。

 だが、ライターが教えてくれた、そう言うものだと。

 戦車は重いので渡れない橋も多い、だから水の中もそれなりに走れるように造って有るのだそうだ。

 それでもある程度の水深の限度は有るらしいが。

 成る程と納得。


 暫く走れば森が見えてきた。

 その時、俺はハッチ……そこはキューポラと言うらしい……から半身を出して外を見ていた。

 因みにだがこのキューポラと言うものは中に入ってハッチを閉めた状態でも外が覗けるように成っていた。

 それもライターが教えてくれた事だ。

 

 「森に沿って右に行ってくれ」

 そう親父に叫ぶ。

 「そこに森の中に続く道が在る、奴等のアジトはその奥だ」

 そして、これはヴェルダン・小次郎の腹に刺さっていた槍が教えてくれた。



  

 森に入って直ぐ。

 武装した集団に出くわした。

 

 盗賊団に追い付いたのかと、銃を握り締めたのだが、構える前に銃が教えてくれる。

 国防警察軍だと。

 実際、身なりも綺麗だし制服も揃っている。

 濃い青緑色をベースに右肩から幅の広い黒色がたすき掛けに入ったスモック……幼稚園児が着ている制服のようなモノ……それだ。

 友軍の記しの筈のそれは俺の着ているポンチョとは少し趣が違う。

 派手な事には違わないが……。


 そして、それらが一斉に小型の自動小銃を構えてこちらに向けた。

 ……MP-40サブマシンガン……その自動小銃はそんな名前らしい。

 第二次世界大戦中のドイツの小型のサブマシンガン。

 

 俺はキューポラから半身を出した状態で両手を上げた。

 本日二度目の万歳だ。

 右手には拳銃、左手にはライターが握られてはいるが……友軍とはすぐにわかるだろうから問題無いだろう。

 その為の派手なポンチョなのだから。

 

 「銃を下ろせ」

 集団の先頭から声が飛ぶ。

 若い女のようだが、しっかりと自信に満ちた声色。

 

 俺は静に銃を戦車の上、キューポラの前に置いた。

 だが、それは俺に言ったのでは無いようだ。

 目の前の兵士達が直ぐ様自動小銃を下に向ける。

 そして人垣が割れて、一人の女が現れた。

 その格好は他の兵士とほぼ同じ柄だが少し違う、肩のたすきが二本線に為り左肩から細い線が真ん中でクロスしている、その左右に向き合ったライオンのシルエット……家紋だ。

 そして、それの形は俺と同じのポンチョだ、丈の長さは随分と違うが。

 その女のポンチョは尻が隠れる程の長さだった。

 家紋を持つと言う事は……貴族なのだろう。

 そして、その家紋を持つものは他には見当たらない……つまりはこの女が司令官だ。

 

 「済まない、兵士達が驚いてしまったようだ」

 女が声を掛けてきた。

 声色で誤魔化されていたが、良く見れば若い。

 女と言うよりそれ以前の少女のようだ。

 

 「俺の拳銃は……拾っても構わないか?」

 その少女に尋ねた。

 不用意に動いて撃たれては堪らない。


 「ああ、構わない」

 そう、即答する。

 

 即答出来るなら、この少女に指示を出すものが居ないという事だ。

 詰まりはこの若さで、これだけの兵を完全に掌握している……たいしたものだと少し感心。

 何処かに目付きの悪い大人でも居るのかと疑ったが、それは悪かったと心で謝罪した。

 

 「何処かに行かれるのですか?」

 柔らかくは聞いているが、尋問なのだろう。

 目付きは鋭い。


 「たぶん……目的地は一緒だ」

 森の奥を指して。

 「娘が拐われた」


 その指差す方をチラリと見た少女司令官。

 

 「救出なら……我々が行おう」

 邪魔はするなと言いたいのだろう。


 「わかった……だが」

 その少女司令官を睨み付け。

 「盗賊は俺が殲滅する! 邪魔はするなよ」

 先に言ってやる。

 

 「何だと!」

 一人の兵士の叫びに騒然となる。


 「喧嘩を売る気か?」

 戦車を相手に。


 「収まれ!」

 兵士達を諫めた。

 そして、少女司令官は俺を睨む。

 「それは……国防警察軍への言葉か?」


 「役立たずへの忠告だ」

 それに兵士達の銃を持つ手が一斉に緊張したのが見えた。


 「戦車長……その辺で止しときましょう」

 見かねたのか親父が操縦席上のハッチから顔を出して俺に。

 「貴族様同士の喧嘩に巻き込まれるのは御免だ……他所でやってくれ」

 ふてる……演技。


 親父が上手く話をすり替えてくれた。

 俺としては別段、国と喧嘩をしても構わないと思っていたのだが……元からこの国の人間でも無いのだし。

 それ以前にこの世界のか。


 だが、親父の一言で少女司令官の口元が歪む。

 少女は貴族だ、それは胸の図柄でわかる。

 少女も俺の胸の図柄を見た筈だ。

 そして、そこには明確な位が存在する。

 明らかに俺の図柄の方が上なのだ。

 それは銃からの意識……ヴェルダン・小次郎と同調しているのでわかる。

 まあ、おれ自身は貴族でも何でも無いのだが。

 折角の虎の衣だ……利用させてもらおう。

 こんな所でウダウダとしている暇は無いのだから。

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