第2話
一
それからしばらくほどしてシャワー室から出た二人。中で行われたことは場所と男女が共にしたを考えれば明らかではあるが、最終的には汗も汚れも洗い流しさっぱりした二人は共にベッドへと腰を下ろすとほんの少し他愛の無い会話をした。
例えば以前の同時多発的襲撃事件のことだとか、SNSである特定の人物と連絡を取ると神隠しに遭ってしまうだとか、自分たちのことは最低限口にせず、世間の本当に他愛の無いことを会話する。
それでも男性にとっては楽しかったり嬉しかったりするのだろう。少女に対するとその赤面症も少しなりを潜めるようであった。
それでも要所要所でかっと赤らんだりするが、これまでのように変に気にする様子は無くなっていた。
少女も退屈そうな素振り一つ見せず、ちゃんとした返事と笑顔で男性の話を聞けば少女からもしっかりと話し掛け退屈をさせないことを気遣っていた。
それが出来るのは経験からであったり、今回に限っては相性の方が強いのだろう。彼女の言葉も心なしか弾んでいた。
そうして更に時間が過ぎて、二人は裸から服を纏っていた。少女はシャツとデニム。男性はスーツと言った具合。
「それじゃあ、私から先に出るよ。はい、コレ」
そう言って男性がビジネスバッグの中から取り出したのは封筒であった。それを見た少女はまたも思わずくすりと笑ってしまって、男性も不思議そうにする。
少女は封筒を受け取りながら「ふふ、ちゃんと封筒で用意してくれるなんて、几帳面と言うか親切なんだなって。ありがとうございます、おじさん」とその封筒で口元を隠しながら笑って言うのであった。
男性は「性分みたいだからね」と云って、続いて先ほどシャワー室での追加サービスによる料金を、こればかりは急遽と言うこともあり財布から直接紙幣を抜いて少女へと差し出す。
「おじさんにならホントはタダにしてあげたいんだけど……」少女がその紙幣をらしくなく申し訳なさそうに受け取りながらそんなことを言うので、男性は代わりに元気な風に笑い声を挙げて「良いってことさ。タダでいいと言われてもキミになら渡していたよ、私は。こんな極楽気分にしてもらったんだから」と云って部屋の出入り口へと向かった。
そして扉に手をかけ、開けようとする間際に男性が振り返ると、それに気が付いた少女は微笑みを浮かべながら小さく手を振る。
見送られて、男性は出て行こうとして、しかし再び振り返る。今度ばかりは少女も不思議そうで、彼女が首を傾げながら見詰める前で彼は顔を赤く照らしながらなにやら頭を掻いたり首を擦ったり。
「おじさん、忘れ物?」はてと思い付いた少女が周囲を見渡しながら訊ねると男性は「いや、違うんだ」と云って少女が再びそんな男性を見る。
「その、キミが良ければ、その、また――……いや、もう遅いから、帰る時は気を付けるんだよ」
結局、男性はそう少女へと別れを告げた。彼が何を考え、何を言おうとしたのか理解できない少女ではなく、しかし彼女もまた「はぁい。それじゃあ、おじさん。バイバイ」そう云って微笑み、手を振るのであった。
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