第9話 接触

あの昼食事件以来、俺はあの名も知らぬ男のことがどうしても気になっていた。現状ただの「一飯の恩」でしかないのだが、この学校に3年もいたせいか、魔法技術にどうも惹かれてしまう。

それに、彼の言葉。

『良いランチタイムを』

気取った言葉のチョイスと話し方ではあったが、そのニュアンスには懐かしさを覚えた。

この学校に入学してから、自分以外が話す標準語なんて殆ど聞いてこなかった。だからどうも、「彼はもしかしたら中二病じゃないかもしれない」という、何とも都合のいい考えが頭から抜けないのだ。

なんとかして彼にもう一度接触できないかと、俺は昼休みギリギリまで食堂で粘ってみた。だが彼は一向に現れない。次の日も、その次の日も限界まで待ったが、彼との再開は果たせなかった。

粘りに粘って一週間経ったある日。その日、午後一発目の授業は「魔法学実践 クラス分け実力テスト」だった。

今までこういう授業でペアを組める相手がいなかった俺は、先生相手に出来の悪い魔法を繰り出しては悪い点をつけられ、ずっと教え方も生徒の質も悪い下級クラスに留まっていた。


「はあ…まぁたクラス分けテストか…」

と呟いて先生の元に向かおうとした途端、肩に人の手の感触を覚えた。

「なあ、俺と組まないかい?」

「え…お前…あん時の…!」

そこには、俺があれほど探していた例の顔があった。

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