第8話 落ちる音

適当に始まってしまった星屑学園生活4年目。

外部への受験は異様に口が狭く(母が受験の費用を殆ど出してくれないというおまけ付き)、全部駄目になった。

知り合いがいたわけでもないため高等部の校舎自体は初めてだが、食堂なんかは共通だ。

食堂、なんて書き方をすると安っぽいが、ステンドグラスで装飾されたどでかいホールのような、一室というよりもはやこれが建物だ、と思えそうな場所である。

まあ、そんないつもの席。返却口と出口に一番近い、便利な席を確保。

そして主食・主菜・副菜・飲み物と、いつも通りの食事をトレーに並べ、席へ戻る。


「あっ」

思わず声が出たのは、ただ躓いたからではなかった。トレーを持ったまま転べば、その行方は当然一つ。床方面、一方通行。


皿やコップの割れる音の代わりに、水音がする。恐る恐る目を開くと、水の塊がクッションとなって皿たちを支えていた。そして、

「大丈夫かい?」

と、一人の男がトレー片手に、もう片方の手を差し伸べていた。

「…大丈夫」

そう言って手を取り、立ち上がる。ムスッとした表情をしているのが自分でもわかる。この学園の、中二病の奴に助けられるなんてシャクだ。さっさと飯を回収して、この場から離れたい。

彼は空いた片手の指先を軽く動かす。すると水の塊はまるで彼の体の一部にも見えるほどスムーズに形を変え、俺の手元のトレーに、転ぶ前と全く変わらない順番で皿たちを並べてみせた。

「…凄え」

反射的に、思ったことが勝手に漏れた。彼はクスリと笑い、

「どうぞ、楽しいランチタイムを」

と言って、離れた席へと歩いていった。

俺はこの学校で初めて、他の生徒に興味を持った。

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