Ⅳ 部室の恐慌

 変わってこちら、男臭いサッカー部の部室でも……。


「――今年もスゲえなあ、おまえ」


 部でも一番女子にモテる、イケメン主将のもとへ届いたたくさんのチョコレートの山を見つめ、彼の同級生でもあるモテない系部員が感嘆の言葉を口にする。


「なあに、大したことないさ。別にそんなもらってもうれしくないし。俺はプロのサッカー選手になること以外興味ないからな……そうだ。おい、おまえ達、欲しければ食べていいぞ?」


 だが、毎年大量にもらうミーハーな女子達からのチョコに辟易としている彼は、後輩部員に声をかけるとそのチョコの山をあっさりと渡してしまう。


「え! ホントつすか!?」


「やった! んじゃ、遠慮なくいただきまーす!」


 ありがたいそのお言葉に、やはりバレンタインのチョコなんかとは縁も所縁ゆかりもないモテない系の後輩達は一斉にカラフルな箱の山へ飛びつき、ほんとに遠慮なく包みを開けて食べ始めようとする。


 ……だが、ここでも案の定、その超常現象は起こった。


「うわあっ! な、なんだ!?」


 開ける先から次々と煙が上がり、やはり皆同じ姿をした和装のご婦人がその度に出現したのである。


 開けた箱の数だけ、次から次へと姿を現すチョコの代わりのご婦人達……この四畳半ほどしかない狭い部室内は瞬く間に占領されていた。


「い、いったいなんなんだよ、このおばさん達!?」


「な、なんでチョコがおばさんなんかに……」


 部員達は茫然自失と、部室内を埋め尽くすご婦人に驚きの声を上げる。


 ぎゅうぎゅう詰めの室内は部員とご婦人の数が拮抗し、汗臭い運動部の臭いから、なんだかお香にも似た甘ったるい化粧の薫りに変化している。


「な、何がどうなってるんだ……?」


 ご婦人と部員ひしめくありえない部室の様子を前に、チョコをもらった本人の主将も押しやられた部屋の隅で譫言のように呟いた――。

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