Ⅱ 体育館裏の怪異

 また、夕日に染まる放課後の体育館裏では……。


「――せ、センパイ! こ、これ、あ、あたしの気持ちです! う、受け取ってください!」


 セーラー服に身を包む、オカッパ頭の純朴そうな一年生女子が、ガタイの良い学生服姿の短髪先輩男子に思いっきりお辞儀をしてチョコレートの箱を差し出していた。


 箱を持つ両手をピンと一直線に伸ばし、地面に向けた顔は夕陽のせいばかりではなく真っ赤に染まっている。


「え? 俺に? えっと……俺なんかでいいのか?」


 緊張しているのは女生徒ばかりではない、こちらも純朴…というか、朴念仁っぽい体育会系の先輩男子も、予期せぬ突然の告白に動揺しているようである。


「は、はい! センパイじゃなきゃダメなんです! あ、あたしのチョコなんかでよかったら、よ、よろしくおねがいします!」


 彼女は目をギュッと強く瞑り、ありったけの勇気を振り絞ってそう叫ぶと、さらに手を前に伸ばして先輩にチョコを突きつける。


「……ああ、いや、ありがとう。こちらこそ、俺なんかでよかったら謹んでいただくよ」


「ハァ……あ、ありがとうございます!」


 わずかの逡巡の後、スポーツマンらしい短い髪の頭をポリポリ掻きながら先輩がチョコを受け取ると、一年女生徒は思わず顔を上げ、その顔色を花が咲いたようにパッと明るくする。


「これ、もしかして手作りか? すごいな……今、開けて食べてもいいか?」


 カワイイ後輩に愛を告げられ、まんざらでもない先輩男子も、照れて顔を赤らめながら、今できたばかりのカノジョの許可を求める。


「……グス……は、はい。あたし、作るの初めてなんで、うまくできたかわからないですけど……あ、おいしくなかったら無理して食べなくても……」


「なあに、おまえが心を込めて作ってくれたチョコレートだ。おいしいに決まってるさ」


 うれし涙を浮かべつつも、手作りチョコに自信のない女生徒がそう付け加えると、朴念仁ながらも心優しき先輩は、そんなさらに嬉しい台詞とともにハート柄の包み紙を丁寧に開け始める。


「さあて、どんなチョコか楽しみだなあ…」


 そして、初めて女子からもらうチョコレートに胸を弾ませながら箱を開けるのだったが…。


「うおっ…!」


「きゃっ…!」


 やはりこちらでもボワンっ! と煙が上がり、中からは先程と同様の中高年女性が現れる。


「お、おばさん!? い、いったいどこから?」


「……あ、あたしの手作りチョコは!? センパイへの愛を込めて作ったハート型のチョコはどこいっちゃったのぉ!?」


 できたてホヤホヤの若き恋人達はお互いに目を真ん丸く見開き、各々に驚きの言葉を口にしながらその銀座のママのような女性を見つめた――。

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