22話.逃亡。
私たちは逃げた。その逃げ道はただの逃避だったのか、それとも希望を探す道だったのかはわからない。ただ私たちは逃げた。目的地も決まってないまま駅に行ってとりあえず東京から離れた。
「あたしたち大丈夫だよね。」
「うん、大丈夫。私が大丈夫にする。」
何があっても大丈夫にする。これからの私たちの人生を今までのもの以上に幸せのものにして見せる。
「とりあえず私が貯めてたお金で家を探そう。すぐに入れる家はきっとあるはずよ。それから仕事もなるべく早く探す。仕事が見つける前までは少し厳しい生活になるかもしれないな…。」
「大丈夫。あたしも貯めてた金があったから。いつかあの家を出ようとバイトして貯めてたんだ。」
そうか。千花はあの家を出たかったのか。何があったかは分からないが、それで家のことを私にあまり言ってなったのかな。だからと言って今それを探るのが礼儀知らずってやつだ。
それから私たちは北海道まで言って富良野という都市で家を得た。最初は千花も私もつらかったけど互いがいたから耐えられた。互いがいたから頑張れた。バイトを転々としながらの生活の中で私は近くの小さな事務所に就職することができて二人の生活も少し安定していった。雪の多いこの都市で私たちの逃亡は雪の日になったようだった。
「ここは本当に雪が多いね。あたしこれまでは雪が好きだったけど、嫌いになるそう。」
ここに逃げてきて半年がたった。初めて向かう冬に千花が愚痴を言う。
「まあ、確かに雪は多いけれど私はまだ好きかな。あのクリスマスの日を思い出させてくれるから。」
先輩の言葉を聞いて思い出した。あの時の雪はまるで神様の祝福のようだった。それを思うとこの多すぎる雪も好きになれそうな気がした。
「先輩、もうすぐクリスマスなんだけどあたしとデートする?」
先輩はもう付き合って一年目となるのにまだ照屋さんだ。
「いいよ。時間作っておく。」
沈着そうに見えるけどすごく照れている先輩の本音をあたしは見ることができる。あたしは先輩をいつも見てきたからそれがわかる。
そういえば先輩はあたしに関すること以外には何に対してもあまり興味を持たないというか、価値のないものを見るような眼をする。それを見るたびにあたしは時々不安になる。もしあたしが何らかの理由で先輩のそばにいられなくなったとしたら先輩は自殺してしまうのではないかと。生に意味を探せなくて死んでしまうのではないかと。そしてそんなことを思ってしまうたび先輩の手を離せばいけないと、一生握っていると思う。
あたしは先輩が必要だ。そしてそれ以上に先輩にもあたしが必要なんだ。
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