23話.雪。

 誰かのために生きるということがこんなに幸せなことだなんて知らなかった。千花のために働き、千花のある部屋に戻る。でもたまに千花のバイトのせいで部屋に帰ってこない時には一日中憂鬱だ。千花が部屋に帰る時だけを待つ自分を見られる。千花のおかげで生きている実感を得る。千花と会う前の何もなかった私に生きる意味をくれた千花に心から感謝をする。もう死んでもあの頃には戻りたくない。一日一日が充実した気分で満たされる。本当に何もかも千花のおかげだ。

 「何考えているの?」

 千花がベランダに立っている私のそばに来て聞いた。

 「いや、雪を見ているとちょっといろいろ考えちゃって、千花が私といてくれて幸せだなと思っていたところ。」

 思っていたことを素直に千花に言う。

 「いきなりそんなこと言われると照れるな。あたしも先輩と一緒で幸せ。」

 「私、もう先輩じゃないってば。」

 「あ、ごめんごめん。癖でつい先輩って出ちゃうんだ。」

 「4年だし、仕方がないか。」

 「でも本当に愛葉って呼ぶだけでいいの?もっとお姉さん扱いされたいとか、そういうのはない?」

 千花が目を丸くして聞いてくる。

 「本当にいいの。それに千花が私のことを名前で呼んでくれるとそれも幸せだから。」

 そういうと千花が私に抱きしめてきた。

 「愛葉のこと、やっぱり好き。大好き。」

 目を合わせないなく下に向いたまま千花はそう言った。そして私は雪の降る街を見ながら千花を抱いた。千花の人生なんて考えることもできないし、考えたくもない。一生、この時間が続けばいいのに。一生、千花と一緒にいられるといいのに。





 千花の事故の知らせを聞いたのはあれから一年後の雪の日だった。あの日はいつもより雪が多い吹雪の日だった。会社でその知らせを聞いた私はその場で崩れてしまった。でも千花のことが心配で心配ですぐに病院に行こうとした。でも車も電車も動かなかった。少しでも早く千花のところに行かなくてはならないのにということだけを考えていた。だから吹雪の中を走っていった。膝のあたりまで積もった雪の中を走っていった。早く千花のいる病院に行かなくてはならなかった。早く千花に会いに行かなければならなかった。早く千花のそばにいてあげなくてはならなった。


 あの時の私はそれしか頭の中になかった。吹雪の中を走って病院に到着した時にはもう3時間が過ぎていた。

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