21話.曇りが雪になりますように。

 先輩の二階のあたしの部屋の窓を見上げながらもう一度強く言った。

 「私と今から一緒に逃げよう、千花。」

 電話越しで聞こえる先輩の声は小さいけどはっきりとした決意が感じられる。先輩は本気なんだとわかる。

 「あたしは先輩と一緒にいられるならそれでいいけど、先輩は本当にそれでいいの?家族と、両親とそれでいいの?仲直りもしてないじゃない?」

 「あの人たちは私がよくわかっている。あの人たちは変わらない。そして今私に大事なのは両親じゃない。千花だよ。千花と一生一緒にいると誓ったんだ。」

 あの日にもらったネックレスはあの時から一度も外したことがない。今でもその感触はあたしにきちんと伝えてくる。

 「だから千花、私と一緒に逃げよう。私は千花のことをこんなところで諦めるわけにはいかない。」

 先輩がそう言ってくれて嬉しくなる。でも同時に罪悪感を感じる。先輩は本当にあたしのせいで家族を失ってしまったのだと。でもそれだからこそあたしは先輩と一緒に逃げるべきだ。あたしが先輩の新しい家族となり、新しい居場所路なり、新しい帰るところにならなくてはならない。それがあたしの罪滅ぼしなのだろう。



 「今日、母が家になくてよかった。早く行くね。ちょっと待ってって。」

 そう言った千花は窓を閉めて家を出る準備をして家を出た。私の前に立つ千花を見ると自分が今何をしようとしているのかがより鮮明に見えた。今から私は私だけのわがままで千花の日常を奪うのだ。何も言わずに私についてきてくれると言った千花に嬉しさと罪悪感を同時に感じる。

 「じゃあ行こうか。」

 そう言ってから私は残った手で千花の手を握った。私はこの手を放したくなくてここに来た。だれが何と言っても私は千花のことが好きで好きでたまらなく好きで、その気持ちは四年たっても変わらなかった。初めて会った時から言えなかったけど、千花はいつでも私の軌跡だった。だから私はこの手を何があっても放したくない。離せない。

 私は私のしたことに責任を背負わなくてはならない。そう、今に握ったこの手の責任を取らなくてはならない。今、千花の手を取って逃げると決めた私の選択に、私についてくれた千花に責任を取らなくてはならない。だから私は思った。もし神様がいるとしたら私たちを、千花を守ってくださいと。私たちの曇った現実を雪が降る前日の曇りにしてくださいと。

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