20話.部屋に来なかった、部屋に行かなかった。

 両親が帰ってからも携帯に連絡がたくさん来た。全部無視した。無視してもしてもずっときて電源を切った。そうするともう一度両親は家に来た。ドアを開けてくれなかった。返事もしなかった。

 そうやって無視したまま私のいつものような生活をした。朝起きて散らかっている鏡の破片をまず整理して、朝ご飯を食べて、読んでいた本を読んで、昼ご飯を食べて、洗濯機を回したまままた本を読んで、洗濯物を干して、夕ご飯を食べて、ゲームもした。

 何もおいしくなかった。何も楽しくなかった。只々、千花を見たかった。千花に会いたかった。

 今日、青葉千花は私の部屋に来なかった。



 あたしのせいだと思った。すべてあたしのせいだと感じた。全部あたしのせいだと思った。何もかもがあたしのせいのように感じた。いや、実際何もかも、全部、すべてがあたしのせいだった。あたしが悪かったんだ。あたしがあの時先輩のプロポーズを断っておいたなら、あたしがあの時告白してなかったなら、あたしがあの時友達になろうなんて言ってなかったなら、先輩があんな思いをする必要はなかったのに。先輩の家族が今はちょっと離れていても中のいい家族のままで一生ずっといられたのに。あたしが先輩の幸せを、安らぎを、帰る場所を、何もかもなくしてしまった。先輩はあたしのようになるべきではなかったのに。

 罪悪感まみれになったあたしは先輩に連絡することすらできなかった。

 今日、あたしは花沢愛葉先輩の部屋に行かなかった。



 千花のいない日々は一日一日がつらい。私の人生はいつの間に千花だけのものになってしまったのかもしれない。

 私は私に設問した。

 「本当にこれでいいのか。このままでいいのか。」

 それに私は答えた。

 「いいはずがない。このままでいいはずがない。千花と一生一緒に生きると誓ったんだ」

 そうなるとすることは一つしかない。そうそれしかない。



 暗い部屋の中で眠ることすらできないままでいたその時、スマホからベルが鳴った。先輩からの電話だ。でもあたしはそれを出ることができない。だから耳をふさいだ。それでもベルは何度も鳴った。止むことを知らなかった。耳をふさいでも何も解決しなかった。だからあたしは先輩の電話に出て謝ることにした。何もかも謝ることにした。そう心から決心して電話に出ると先輩はだった一言だけを言った。

 「窓の外を見て。」

 先輩が何をしようとするのか理解が追い付かなかった。だから先輩の言う通りにカーテンを開けて窓の外を見た。するとそこにはあたしの家の前の街灯の下に立っている先輩が見えた。先輩はスーツケースを持ったままこっちを見ていた。そしてあたしが先輩を見ると先輩は言った。

 「私と一緒に逃げよう。」

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