9話.ケーキの味がしない。
先輩はあたしがなぜ拗ねてたのかに気づかなった。当然と言えば当然かな。普通は同じ女の子同士の恋愛とか想像しないからな。きっと先輩もあたしのことを親しい後輩くらいにしか思ってないだろう。それは寂しい。それは苦しい。初めて会った時からあたしの胸の中に抱いてきたこの感情を先輩に伝えたかった。でも今日でわかった。先輩にこの気持ちを伝えたとしたも先輩はあたしの、あたしだけの彼女になってくれないだろうということを。今日はクリスマスイヴだ。それも先輩と一緒のクリスマスイヴだ。嬉しいはずだったのにちっとも嬉しくない。考えるほど悲しくなる。涙が出そう。今食べているケーキの味がしない。
「千花がどういうケーキを好きなのかがわからなくて一応店員さんに勧められたイチゴケーキにしてみたけど、どうかな。」
先輩はいつも冷たくしようとしている。でも知っている。だれよりも優しくてその感情を表現する方法をよくわからないだけということを。
「もし口に合わなかったら教えて。次は千花が一番好きなケーキを買ってくるから。」
あたしの隣でケーキを食べている先輩指は長くて細く、長い横髪を耳にかけるしぐさは繊細で、あたしに振り向いたそのひとみはあたしだけを見てくれていた。あたしの人生の中で一番好きになった人が、この先輩が、あたしは好き好きでたまらない。だからあたしだけを見てくれるそのひとみを見た瞬間にわかった。もう我慢できないと。そう思った瞬間、涙があふれてきた。
「ど、どうしたの千花。私のせいだよね。ごめんね。」
先輩が謝る。でも先輩のせいじゃない。
「ううん。ちがう。ごめんね。先輩のせいじゃないの。あたしのせい。」
泣きながら言う。あたしもあたしが何を言っているのかよくわからない。
「ごめんね。ごめん。」
あたしはただただ、あやまった。
「千花…。」
そして先輩が泣いているあたしを抱いてくれた。
「私ね。あまり笑わない人間だったの。」
抱いたまま先輩が話し始めた。
「何に対してもあまり執着がなくて生きること自体にすらあまり興味がなかったの。」
先輩はいきなり何を言っているのだろう。
「そんな中でいきなり現れたのがあなただったの。初めて会った時からあなたのその笑顔が好きだった。その笑顔のおかげで私もたくさん笑えるようになったの。」
心臓のどきめきが止まらない。
「だからこれは私のわがままなんだけど、私は千花がいつまでも笑顔でいてほしい。でも私はそのために今何をすべきなのかがよくわからない。だからね。私、今どうすればいいのかな。私はただ、千花が笑ってほしいだけなのに。」
先輩が震える声であたしに聞いてきた。
「あたし、先輩のことが好きよ。一目ぼれだった。」
普段ならここまで話せなかった言葉をしてから先輩に目を合わせた。あたしが映っている先輩のひとみが揺れるのが見える。
「だから今からあたしがするのは愛の告白。とっても恥ずかしいけど言うよ。たとえ先輩に断られるとしても言うよ。先輩へのあたしのこの気持ちは隠せるものではないから。隠せたくもないから。」
それから目を閉じて一度深呼吸をしてから涙で赤くなっているはずの目を先輩にもう一度会わせながら言い始める。
「あたしは愛葉先輩のことが好きです。愛しています。あたしと付き合ってください。」
そう告白をした瞬間、先輩の左目をはじめに涙がこぼれてきた。
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