8話.そのケーキはイチゴケーキ

 千花を少し怒らせてしまったようだ。そのつもりはなかったのだが、怒らせてしまった。私のせいだ。千花に悪い思いをさせたのかも知らない。ケーキを買って、帰って謝ろう。きちんと謝ろう。

 「いらっしゃいませ。」

 ケーキ屋の店員さんが明るく挨拶をする。茶色に染めた長髪が似合う女性さんだ。

 「クリスマスケーキにはどんなものがいいのでしょうか。」

 普段、あまりケーキとかは食べないからこういうのはよくわからない。

 「一番人気のあるものなら、イチゴケーキですね。ある意味では定番ですからね。」

 親切な方だな。

 「じゃあ、これでお願いします。」

 二人が食べるには大きすぎるくらいのイチゴケーキを指さしながら言った。

 「はい、わかりました。」

 これで千花の気持ちが少し晴れるといいけど。やはり好きな人にはあんな表情をしてほしくない。いつも笑っていてほしい。それに千花の笑顔にはいつも救われてきたから、あの笑顔は失いたくないから。

 千花のおかげで私の人生は大きく変わった。もともと生きること自体にあまり興味のなかった私に生きる意味も与えてくれた。今の私の人生はすべて千花のおかげだ。だから早く千花の待っている私の家に帰りたい。帰って千花にじゃんと謝って千花の笑顔が見たい。


 ドアを開けながら千花のことを真っ先に探した。千花は無表情でスマホをいじっていた。

 「帰ったよ。ごめん。」

 入ってすぐに謝りながらケーキを出した。

 「本当にごめん。次からが言動にもっと注意するよ。ごめん。それでこういうの好きかなと思って買ってきたよ。これで許してくれると嬉しい、かな。」

 千花の顔が見れない。

 「先輩はあたしがなぜ拗ねてたのか、わかってないよね?」

 え?

 「いいよ。もう慣れてるから。そもそもそこまで怒ってない。あそこまで謝らなくてもいいよ。」

 そう言った千花は私に笑ってくれた。

 「先輩も大げさだな。ここまでする必要とかなかったのに。でもせっかく買ってもらったんだし、一緒に、食べよう?」

 そしてその笑顔はいつもと違って少し、寂しく感じた。

 「うん、ありがとう。一緒に食べよう。」

 でも私はその笑顔の意味が分からない。だから言える言葉がない。ただ、千花がいいと言ったから、いいと思うしかない。

 「先輩。ありがとうね。」

 そう言ってから千花はケーキを食べ始めた。

 

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