7話.クリスマスイヴ
千花が、私の家に来てくれた。いや、家に来るのはいつものことだけど今日は特別だ。クリスマスイヴにほかの誰でもなく私に会いに来てくれた。私に。嬉しくて、ありがたくて、涙が出そうだった。千花と目を合わせなかった。
「あたし寒いけど、入っていいかな?」
それを聞いて現実に戻った気分だった。
「あ、うん。入ってよ。」
嬉しい。嬉しくて胸が苦しい。私の千花への思いは純粋なものではない。そのことを思うと千花を裏切るみたいで、胸が苦しくなる。嬉しいのに、苦しい。
慣れた動作で食べる準備をする千花を見ていると私が何も準備してなかったということに気づいた。
「あ、ごめん。そういえば私、千花が来るとはわからなくて何も準備してない…」
「大丈夫。知ってる。あたしが先輩にサプライズがしたかったからいい。」
「うん、ありがとう。」
千花は本当に優しい。私はあそこまで優しくはなれない。
「で、びっくりした?」
「本当にびっくりした。」
来たのが千花だと知った瞬間、心臓が止まるかと思った。
「びっくりしたけど、うれしかった。ありがとね。」
「今日、それもう何回目?それはいいから早く食べよ。冷めちゃうから。」
千花は頬が若干赤くし照れながら、それをごまかすように言った。こんな千花を見るのはなんだか新鮮だ。千花も照れたりはするのだな。
「千花は今日彼氏とかと会わなくていいの?」
だからなのかな。なんだか今なら聞ける気がした。
「え、あたし?そもそも彼氏もないよ。」
千花は眼を丸くして答えた。
「そう。千花なら大学に入ってすぐに彼氏とか作れると思ってた。高校の時も告白とかよくされてたから。」
千花に彼氏がないということにちょっと嬉しくなってしまうのは悪い気がするけど少し浮いてしまう。
「それはそうだけど、あたしまだ誰とも付き合った経験ないよ?」
「え?本当に?千花なら恋愛経験多いはずだと思っていた。」
柄でもなく本当に驚いてしまった。なかったのか。そうか。千花くらいになるといつでも機械はあったはずなのに。
「なによ。あたしをどんな人だと思っていたのよ。だいたい、そんなことあったなら真っ先に先輩に言ったはずだからね。」
そう言った千花は拗ねた表情をした。これは私が悪かったかも。どうしよう。こんな時にはどういう言葉をすればいいのだろう。千花はいつも笑っていたから、こういう表情をしたなど見たことがなかったから。どうしたらいいのかわからなくなった。
「私、今からケーキ屋さんに行ってくる。」
わからないから、行動で見せよう。
「だから少し待っててね。クリスマスイヴにケーキは欠かせないから。」
そう言ってから拗ねた千花を後ろにして外に出た。
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