10話.チョコケーキ

千花が私に告白をした。私は千花への許されない感情を一生隠すつもりでいた。これでいいと思っていた。ただ千花と一緒にいられるならこれでもいいと。だからこの関係が壊れないように私の感情を一生懸命に隠した。でも千花は違った。隠さないことを決心した。それにはどれほどの勇気が必要な決断だったか私では測れない。私は逃げたからだ。

 「うん。私も好き。初めて会った時から好きだった。」

 涙まみれの震える声で私は答えた。今度は私が泣いてしまった。

 「千花のことが好き。苦しいほど好き。でもそれ以上に好きで幸せだから好きな気持ちをやめられなかったの。」

 そう言った私のことを今度は千花が抱いてくれた。涙は止むこと知らずに溢れ続けた。私は泣きながら千花にずっとありがとうと言った。そしてそんな私の頭を千花は優しくなでてくれた。これではだれが先輩なんだかわからない。

 「あたし、今すごく幸せだよ。」

 千花が笑いを含めた声で言いながら、私の頬を撫でてきた。

 「愛葉先輩。」

 千花が耳元に囁く。

 「キスしてもいいかな。」

 「え?」

 驚いて顔を上げた瞬間、千花の唇と私の唇は重なった。今度は嬉しくて涙が止まらなかった。初めてのキスは、涙の味がした。




 先輩と初めてのキスをした。先輩の涙はあたしとキスをしている時も止まらなかった。だから初めてのキスはちょっぴりしょっぱかった。

 「ごめんね。ずっと泣いてしまって。」

 まだ少し涙目をしている先輩がそう言ってきた。そのひとみはいつもよりきれいで、この目を見るためだけにも先輩を泣かせるべきではないかと一瞬思わせるくらいだった。

 「大丈夫。あたし的には先輩の新しい一面を見られてちょっと嬉しいし。」

 そういうと先輩は少し照れるかのように笑った。

 「それはそれとして、ケーキまだほとんど食べてないから食べようか。」

 そう言ったあたしはフォークを手に取りイチゴケーキを食べ始めて。先輩はいろいろ不器用だ。不器用なところも含めて好きなんだけどね。それに不器用さのおかげで今おいしいケーキも食べているし。

 「あ、先輩。」

 先輩を呼ぶとフォークを手に取ろうとしていた先輩があたしに振り向く。

 「ちなみにあたしはイチゴケーキよりはチョコケーキ派なんだよ。」

 それを聞いた先輩はまた涙目になろうとしていた。先輩の目はやっぱり世界一きれいだし、かわいいなと思った。

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