6話.クリスマスの予定とかある?

 一緒の帰り道で千花が急に私の前で後ろ歩きしながら言う。

 「先輩はクリスマスになきか予定とかある?」

 これは知っててわざとなんだろうか。

 「ないわよ。」

 「うん、知ってた。えへへ。」

 「先輩を揶揄うでない。」

 千花も、先約、ないといいのに。

 でもそれを願うのは私のわがままだ。大学生になって初めてのクリスマスで、千花の周りにはいつも人々が集まっていることも知っている。だから今年のクリスマスを私と一緒に過ごして欲しいというのは私の単なるわがままで、千花が私と一緒に過ごしてくれると思うのは私の傲慢ごうまんだ。

 「でも先輩を口説こうとした人は本当に一人もなかったの?いや、それ以前に告白してきた人とかなかった?こんなにきれいなのに。」

 なくはなかった。でも全部断った。そしてそれを千花に言うのはだめな気がする。だからこう言う。なかったと。

 「なかったよ。それに千花も知ってるだろう。私、一人のことが好きだということ。」

 これも嘘だ。千花と一緒がいい。

 「そうか。あたしは一人よりは二人が好きなんだけどな。」

 そう言った千花は私の目を見てそっと笑って見せた。その笑顔を見るとほんの少し、胸が痛くなった。千花はそういう人なんだ。わかっていた。でも直接に聞くと、今でもすぐ私のそばを離れてほかの男のところに行ってしまいそうなきがした。

 一人より二人が好きだと言う千花の隣にいるのは私になれない。胸が、いたい。



 先輩にクリスマスの予定がないということを知った時には本当にほっとした。だれかとの先約とかあったらどうしようと思った。でもなくてよかった。これで先輩を独り占めできるわけだ!

 玄関のチャイムをおすと、ピンポンと音がする。そしてその次に中でなんだかドタバタする音が聞こえる。先輩、びっくりしたのかな。

 「千花!いきなりどうしたの?」

 先輩がドアを開けて大きくなった目を光らせながらいう。

 「クリスマスイヴだからね。先輩と一緒にいたくて来たよ。そしてこれ、チキンも買ってきた。」

 あたしはあまり好きはほうではないけど、クリスマスだし、先輩はこういうの好きだったはずだから買ってみた。

 「あ、ありがとう。千花が来るとは少しも思ってなかったもので、えっと、だからね。うん、ありがとう。嬉しい。」

 先輩はあたしと目を合わせず下を向いたままそう言った。

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