2話.見ちゃった、見られちゃった。
千花はいつもじっとしてられない性格のくせにたまに私を見つめたまま止まっちゃうときがある。思ってみれば初めて会った時もそうだった。三年前の春の日に私をいつものように受験生の本分を忘れたまま他人が見ればこんなところにもベンチとかあったんだと思えるような校舎の隅にある私の指定席で本を読んでいた。
昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴ってもうそんな時間かと思いながら本から視線を外すと私の隣にとっても可愛げな人が私を見つめたまま止まっていた。彼女の短いといえば短いし長いといえば長い短髪の髪は彼女が快活な人であるとことを指しているようで、少し開いた唇は潤っていてとても柔らかく見えた。そして何より私を見るその眼差しは今まで見たことのない純粋に見える黒目勝ちの少女であった。
「あの..」
愛葉先輩がそう言った瞬間にあたしは私が見とれたままじっとしていたことに気づいた。
「あ、その、ごめんなさい!」
校舎のすみでひとり本を読んでいた先輩は、あたしの15年の人生の中で一番きれいな人だった。本をページをめくるときの指先は細くて繊細で、耳にかけた長い横髪は先輩の落ち着いた性格をあらわすようだった。その時の本を読んでいたあのひとみはどこかここではない遠くを見ているような、少し寂しげなひとみだった。
「のぞき見してるみたいで気持ち悪かったですよね。ごめんなさい。」
とあたしは本当にあわててあやまった。
「いいえいいえ。大丈夫です。気にしないでください。」
そしてこの時も先輩はなんだか少し冷たそうな口調で答えた。そしてあたしはこの時に思った。この人をのがしてはいけないと、そうしたら絶対に後悔すると。
「あの、覗き見しといてこんなこと頼むのもずずしいとは思っていますが、もしよければあたしと友達になってくれませんか。」
なぜならあたしはあの時先輩に一目ぼれしてしまったから。
思わず冷たく返事してしまった後悔していた時に、あの時は名前も知らなかった後輩が私に友達になってくださいといきなり頼んできた。そして私は思った。この頼みを断れば私は一生後悔すると。
今になった思えばあの時の千花が私にそう言ってくれなかったなら私はそこで千花を引き留めることができなかっただろう。でもだからといって、あの心を直接伝えることはできない。なぜならあの感謝は単に友達になってくれたことに対しての感謝だけではないだろうから。たぶん、だから私はいつも千花の頼みを断れないのだろう。
だから私は千花に恋をしてしまったのかも。
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