1話.気づいて、気づかないで。
「先輩、カレー作ってください!」
千花が私に可愛いふりをしながらお願いしてきた。
「自分で作ってよ。レトルトはどこにあるのかしてるだろ。」
それに対して私は最大限に平常心を維持しつつ冷たく答えてやった。
「でも先輩が作ってくれるカレーのほうがもっとおいしいもん!」
あれは可愛いふりをしているのではなく、生まれ持った可愛さではないかと思ってしまう。とにかくそんなものは重要ではない。今大事なのは私の家にほぼ居候しているあの後輩が可愛くて可愛くて仕方がないということだ。
「今回が最後だからね。次からはせめて買ってから言え。」
だからその気持ちをばれないように最大限の平常心で冷たく答える。いつ、どこでこの気持ちが溢れ出てくるかわからないから。
「やった。やっぱり愛葉先輩!大好き!」
そういいながら千花は後ろで私に彼女の短いといえば短いし長いといえば長いといえそうな髪の毛を私の首筋にあてながら抱かれてきた。
「火使うから危ないよ。行ってテレビでも見ていて。」
私はいきなり抱かれてきた驚いてしまったこの感情を気づくのが怖くて、声が震えないように一生懸命に頑張りながら言った。こういうたびに私は私のこの感情がばれそうでとても不安になってしまう。私のこの気持ちがばれてしまったら何年も続いてきた私たちの関係が終わってしまうかもしれない。そんなのいやだ。だから頑張って冷たくするしかない。いつ私の気持ちが溢れるかわからないから。この気持ちに千花が気づいてはならないから。
愛葉先輩はあたしの気持ちに気づかない。さっきも勇気を出して抱いたままそっと好きっと言ってみたが、やっぱり先輩はいつもと変わらない声で淡々と答えた。先輩があたしのこんな気持ちを知れば私たちの関係がどう変わるかわからないという不安は少しあるが、それでもあたしはやっぱり先輩を好きなこの気持ちが隠せない。だからあたしは先輩が私の感情に気づいてほしい。
「できたよ」
そういいながら先輩はカレーを持ってきた。やっぱり先輩はきれいだな。ああいう小さなしぐさ一つ一つに優雅さが感じられる。それどころか火の前にいたせいか少し出た汗すらもきれいに見える。なんでこんなにきれいなのだろう。
「どうしたの?食べたかったのではなかったの?」
「あ、うん、えっと。あ、ありがとう。」
知らないうちにじっと見てしまった。どうしよう。
「顔も赤いし、もしかして熱でもあるの?」
そういいながら先輩は近づいて、あたしと目を合わせながら、あたしの前髪を書き上げながら額に手を伸ばした。
「ち、ちがう!いたくないよ!あたしすごく元気!それより先輩も一緒に食べよう。」
ああ、びっくりした。先輩はいつも冷たいくせにたまにこうやって不意打ちしてくるんだから。
「そう。ならよかった。うん、一緒に食べよう。」
なんか少し笑った気がするけど気のせいかな?
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