3話.やった、やられた。

 「全部食べたことだし、ゲームでもしない?」

 そう千花が提案してきた。ゲームか、実はゲームとかあまり興味はなかったし、今もそれほど興味あるものではないのだけど千花と一緒に何かをするのは楽しい。

 「そうだね。そうしようかな。」

 家にあるゲーム機も私が買ったのではない。ある日突然千花が「バイトして買ってしまった!」と言いながら私の自炊の部屋に持ってきたものだ。自分の部屋に置けよといったけど親に怒られるからと言って私の部屋に置いて行った。

 それから毎日のようにゲームをしたいという理由で私の家にやってきた。毎日のように来て、いつしかゲームをしなくても来るようになった。ただ毎日、私の家に来るようになった。少し嬉しかった。

 「じゃあ、一緒にスマブラやる?」

 一緒にするのならなんでもいい。と言いたいところだがそれはだめだ。

 「うん、いいよ。」

 淡泊に返事をする。これでいい。これでいいと思わなくなるかもしれないけ、どとりあえず今はこれでいい。こんな形でもこの関係がずっと続いてほしい。



 本当はあたしはあまりゲームに興味があったわけではない。ただ言い訳が必要だっただけ。だから高校の夏休みにバイトしてゲーム機を買って先輩の家に持ってきた。先輩の家に行く口実が必要で、先輩といっしょにいる口実が必要で、先輩といっしょにする口実が欲しかっただけだ。先輩といっしょならなんでもよかった。

 「あたしはこれにしよう。」

 「千花はやはりあのキャラが好きなんだな。」

 「うん、好きよ。きれいだし。」

 それに先輩に似てるし。似てないけどどことなく似てるんだよね。だから好き。

 「なんだか久しぶりの気がするね。これするの。」

 「そうかな。そうかも。」

 先輩は本を読む以外に趣味がない人だった。いや本を読むことしかしないような人だった。だから最初は本当に苦労した。あたし本はあまり読まない派だし、読んでも漫画だし。だからゲームにした。先輩と一緒になんでもやりたかったけど、あまり外に出ない人で、外に出たがらないようにも見えたから。出ても公園に行って本を読むくらいだったから。まあ、それはそれできれいな先輩を見放題だからいいけど。

 「ああっ、負けちゃった。やっぱり先輩はつよいな。」

 「そ、そうかな。」

 あ、先輩ちょっと照れた。かわいい。

 「ようし、こんどは負けないからね!」

 「お手柔らかに。」

 いっしょにゲームをするときの先輩の横顔はいつもより少し溶けた感じというか、自然としているようで、実はこれが本当の顔じゃなかなと思う。だからいつもあたしはその横顔に見とれて負けてしまう。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る